オーデリックの伝統工芸シリーズ made in NIPPON ⑤ 漆器の良さや技術広める一助に

オーデリックでは、伝統工芸とモダンデザインとの融合で日本の美意識が生きる新しいあかりを追求すべく「made in NIPPON」と題したシリーズを展開している。今回は、石川県加賀市の「山中漆器」を紹介する。

開発に協力した守田氏

山中漆器は、石川県加賀市山中温泉地区で生産される漆器を指し、一般に山中塗とも呼ばれる。16世紀終わり頃の天正年間に始まり、江戸中頃からは会津、京都、金沢から塗りや蒔絵の技術を導入して茶道具など塗り物の産地として大きく発展した。「木地の山中」と称されるほど、椀などの丸物木地を轆轤(ろくろ)で挽く挽物木地の技術では他産地の追随を許さない。「山中木地挽物」は、芸術上価値が高く工芸史上重要な位置を占め、かつ地方的特色が顕著な木工芸の技術で石川県指定無形文化財に認定されている。
守田漆器の守田貴仁社長は、山中漆器について「塗り物は日本の伝統工芸の最たるもので、かつては正月や婚姻の儀などハレの場には当たり前に使われていた。若い人が自宅に漆塗りの器を揃えることは少なくなりつつあるが、漆調のスマホケースやワイングラスなど現代的な製品も多々生まれている。まずは実際の製品をご覧になって漆器の良さや技術を知っていただきたい」と語る。
山中の漆器業界では中心的な存在でもある守田氏は、オーデリックの照明器具づくりにも協力した。オーデリックとのコラボレーションは、東京ビッグサイトで開催されたある展示会への出展中に共通の知人に紹介されたことが発端だという。
最初に開発を担当したオーデリック開発部デザイナーの小島光理氏は、守田氏との出会いについて「全国に漆塗りが存在していることもありモダンな和風照明のデザインに漆を使うアイデアは昔から持っていたが、異業種の私たちにゼロから協力していただける進取の気性に富んだ職人さんを探すのは簡単なことではなかった。偶然の出会いはいつものことだが、私たちとしては珍しく展示会での出会いという極めて正攻法な形で守田さんとの関係が始まった」と語る。
また、小島氏から引き継いだ平谷百絵氏は「守田さんに案内されて観光客は行かない山中の職人さん達の工房を巡ると、自分の無知と技術の高さに驚くことばかりだった。こんな凄いものが正しく評価されていないことに対して、この仕事が世の中にもっと認知されて技術を紡ぐ一助になりたいと考えた」と語る。

担当の小島氏㊨と平谷氏

漆塗りは、十分に乾燥させた木材を挽いた後、塗っては磨き、ひたすら磨いては塗りという工程を繰り返す。細かなチリが舞って表面に付着することを嫌い、工房の多くはエアコンも使わない。修業は辛く、後継ぎ候補も少ない。それでも職人達は、黙々と毎日の作業を続ける。
ほとんどが手作業による漆塗りは、人件費がそのまま製品価格に反映する。オーデリックが揃える一般的な価格帯に収めるためには、塗り面積が過大にならないよう調整しながらデザインにうまく取り入れていく苦労があったが、発表後は旅館やホテルをはじめ一般住宅にも販売された。
時代とともに暮らしは変わり、伝統もまた変わる。しかしながら、我々の多くはこうした職人が持つ技術の継承がなされない危機的な状況をも知っている。オーデリックのように何か行動を起こすか、それとも傍観するのみか。我々はその答えを求められているのかもしれない。

(中尾晋也)

電材流通新聞2020年12月3日号掲載