【国交省】 所有者不明空き家への対応の 実態についてアンケート調査

国土交通省国土交通政策研究所はこのほど、自治体による所有者不明空き家への対応の実態についてアンケート調査を実施した。今回はこのなかから、「所有者不明物件の状況」を紹介する。

所有者不明物件の実態

収集した所有者不明物件(事例)の種別

アンケートでは、「特に周辺環境への影響が大きかった事例」「特に所有者調査で困難を極めた事例」「独自の工夫で所有者等の所在を把握できた事例」について、各1件具体例の記載を求めた。これに対する回答事例のうち、事例を課題の面から捉えた「特に周辺環境への影響が大きかった事例」が37.0%、「特に所有者調査で困難を極めた事例」が50.2%を占めているのに対して、解決事例の紹介である「独自の工夫で所有者等の所在を把握できた事例」は5.0%と少数にとどまっており、自治体が苦慮している状況がうかがえる。

所有者調査に至る経緯

①所有者調査のきっかけ


「住民等からの個別相談・苦情」が84.9%で突出している。前項での同じ質問に対する市区町村としての回答集計と比較すると、相談・苦情の割合が特に高い点は同様だが、空家法や対策条例に基づいた自治体の自発的な取組の占める割合は低く、所有者不明物件はその多くが住民等からの相談・苦情からスタートしていることが分かる。所有者不明物件は管理者が不在な場合が多く、適正な維持管理が困難であることを考慮すれば、この傾向も頷ける。

②周辺環境等への影響


「建物の破損(63.6%)」「建物の倒壊(36.4%)」など保安上の危険に関するものが最も多く、「庭木・雑草の繁茂(53.7%)」「害虫・害獣の発生・増殖(28.6%)」など生活環境保全上の問題がこれに次いでいる。
また、これらの結果としての「景観阻害(35.6%)」も問題となっているほか、「火災・犯罪等の危険(29.5%)」の指摘も少なくない。空家法における特定空家の認定基準に関連する四基準全般にわたっている。

土地・建物に関する所有者不明の状況

空き家施策担当部署へのアンケートということもあり、建物所有者に関連する項目、すなわち「建物及び土地の所有者の所在の把握が困難」が41.3%、「建物所有者の所在の把握が困難」が33.5%を占めている一方、「土地所有者の所在の把握が困難」は6.2%と少ない。
これらの状況別に物件に関する所有権の最終登記時期を整理すると、「建物所有者の所在の把握が困難」な場合と「建物及び土地の所有者の所在の把握が困難」な場合の建物・土地の最終登記時期は、それぞれ1950年代、1960年代まで遡るほど多くなってはいるが、比較的幅広い年代に分散している。建物関連については、登記時期が古い物件で所有者の把握が困難という緩やかな傾向はみられるものの、後述するように所有者調査では様々な要因によって特定まで至らないことが多く、所有権登記の古さが直ちに所有者不明物件に結びついたり、登記の新しい物件ならば所有者把握が容易であったりという訳ではないと考えられる。
なお、「土地所有者の所在の把握が困難」な場合の土地の最終登記は古い年代、特に1949年以前が多い。

所有者不明物件の立地条件

①空間的特性
「中心部周辺の古くからの市街地(既成市街地)」が42.0%と最も多く、「郊外の田園集落や農山漁村集落」が29.6%でこれに次いでおり、住宅密度等の周辺環境は大きく異なるものの、比較的古くから住宅が建設されている地域では都市の内外を問わず所有者不明物件が存在していることがうかがえる。
なお、回答事例の範囲内での傾向ではあるが、既成市街地と郊外の集落部の住宅集積の差を前提にすると、所有者不明物件の発生に関しては後者の方が割合が高いと推測される。

②土地利用規制
用途地域の指定区域が約半数を占めており、そのうちでも比較的規制が緩い住居系の「第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域」が19.8%、商業系の「近隣商業地域、商業地域」が10.7%である。
一方、用途地域の指定のない地域でも、非線引きの白地地域が16.4%、市街化調整区域が10.0%を占めている。

所有者調査の状況

所有者不明の状況


一般的な所有者調査のプロセスとして、登記簿等での所有者確認を行った後、住民票をはじめとする公的情報等を用いた所有者(所有者死亡時には相続人)の追跡と居所確認を行い、最後に所有者や相続人へ文書等によりアプローチする、という流れが想定される。
アンケートでは「所有者の死亡を特定できたが、相続人(の一部)が判明しない」物件が30.9%で最も多く、前項での同じ質問に対する自治体としての回答集計との比較では他の選択肢より相対的に高い割合となっている。これに「所有者や相続人の居所を特定できたが連絡がつかない、意思疎通が難しい(21.5%)」「そもそもの所有者が不明(18.5%)」が次いでいる。やはり所有者死亡後の相続人の特定が最も大きな障害となっているが、他のプロセスでもそれぞれ所有者等の把握が困難な状況が生じており、問題の複雑さがうかがえる。

所有者の特定が難しかった最終的な要因

①所有者の生存を特定できたが居所が不明な要因
回答のあった101件について、その要因を尋ねたところ、「住民票の宛先に郵送したが、宛先不明で返送されてしまった」が39.6%と最も多く、次いで「住民票の住所を訪問したが、所有者の住居と特定できなかった」が26.7%を占めており、住民票で住所を確認できても居所の特定に至らない場合が多いことがうかがえる。
なお、「その他」の内容としては、「住民票が空き家所在地のまま所有者本人の居所不明」が11件、「住民票や納税管理人の住所に郵送したが、回答なし(返戻なし)」が7件と、住民票等による住所情報の入手後に行き詰まっている例が上位となっている。

②所有者の死亡を特定できたが相続人(の一部)が判明しない要因


回答のあった231件について、その要因を尋ねたところ、「相続関係が複雑であり、すべての相続人を特定できなかった」と同率(32.9%)で「すべての相続人が相続放棄してしまっていた」が挙げられているのに加え、「相続人が全くいないことが判明した」も13.0%を占め、全体の相続関係を把握できなかったというだけでなく、相続人の不存在が特定されたことで所有者不明化しているという事例も少なくない。
なお、「その他」の内容では、「調査中」を除くと「相続人が外国籍のため戸籍が存在しない」「所有者の住民票除票が保存年限を経過したことによる本籍地の不明」が比較的多い。

③所有者の死亡を特定でき相続人も判明したがその(一部の)居所が不明な要因


回答のあった84件について、その要因を尋ねたところ、「住民票の宛先に郵送したが、宛先不明で返送されてしまった相続人がいる」が31.0%を占める。次いで「住民票が除票されており、転居先の自治体(住所)を特定できない相続人がいる」が28.6%となっているが、相続が生じるほど時間が経ってしまっているせいか「所有者」の居所不明の場合と比べると、その割合が高くなっている。
なお、「その他」の内容をみると、「相続人が海外在住」「相続人の住民票記載の住所が空き家・退去済」の回答が比較的多い。

所有者不明物件への対応措置

「所有者調査を継続中」が49.3%を占めており「所有者を特定し処分等を実施」は8.3%にとどまっている。
また「所有者不明のまま行政代執行等により処分(2.3%)」「不在者財産管理人選任を申し立て、不在財産の管理・処分等を実施(1.3%)」「相続財産管理人選任を申し立て、相続財産の管理・清算を実施(2.1%)」といった所有者不明に関連する制度の利用もわずかである。前項での同じ質問の場合と同様に、制度利用の条件や財源の確保等の必要性により、こうした措置がとれない状況がうかがえる。

なお、「その他」の内容をみると、「所有者等を特定し、指導・勧告もしくは処分予定」「相続人等と協議中・連絡待ち」「所有者等へ対応を依頼中」のように所有者等特定後の手続き段階にあるものが比較的多い。また、建物所有者に加えて土地所有者が主体となって解体する等、自主解決の例もみられる。

まとめ

所有者不明物件の特徴
事例が周辺環境や事業に及ぼしている影響としては、「建物の破損」が6割強、「庭木・雑草の繁茂」が5割強で、保安上の危険と生活環境保全上の問題に関するものが多くを占めており、これに「管理不全に起因する景観阻害」が続いている。
所有者の把握が困難な物件については、「建物及び土地」と「建物」を合わせると7割を超えており、建物関連の所有者把握が困難な例が多い。登記時期との関係をみると、建物関連は比較的幅広い年代に分散している。
所在地の空間的な類型では、「中心部周辺の古くからの市街地(既成市街地)」が4割強、「郊外の田園集落や農山漁村集落」が約3割で、その多くは古くからの住宅地である。

所有者調査の状況
物件における所有者不明の状況としては、「所有者の死亡を特定できたが、相続人(の一部)が判明しない」が約3割と最も多い。
ただし、「所有者や相続人の居所を特定できたが連絡がつかない、意思疎通が難しい」「そもそもの所有者が不明」もそれぞれ2割前後等と、探索プロセスの各段階で所有者特定が困難な状況が生じている。
「所有者の生存を特定できたが居所が不明」な要因は、「住民票の宛先に郵送したが、宛先不明で返送されてしまった」が約4割、「住民票の住所を訪問したが、所有者の住居と特定できなかった」が3割弱で、住民票で住所を確認できても居所の特定に至らない場合が多い。
「所有者の死亡を特定できたが、相続人(の一部)が判明しない」要因は、「相続関係が複雑であり、すべての相続人を特定できなかった」と「すべての相続人が相続放棄してしまっていた」がともに3割強で、相続関係全体を把握できない事例のほか、相続人の放棄等により所有者不明化している事例も多い。
「所有者の死亡を特定でき、相続人も判明したが、その(一部の)居所が不明」な要因は、「住民票の宛先に郵送したが、宛先不明で返送されてしまった相続人がいる」が3割強を占める。これに「住民票が除票されており、転居先の自治体(住所)を特定できない相続人がいる」が3割弱で続いており、住民基本台帳法施行令第34条第1項の保存期間も大きな要因となっている。

所有者不明物件への対応
「所有者調査を継続中」が半数を占めている一方、「所有者を特定し処分等を実施」は1割弱にとどまっている。
また、所有者特定が困難な場合に利用される行政代執行や財産管理制度等の利用はごくわずかである。

電材流通新聞2020年3月26日号掲載