脱炭素社会に向けた住宅・建築物に おける省エネ対策等のあり方・進め方 =1=

国土交通省ならびに経済産業省、環境省はこのほど、共同でとりまとめた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を公表した。1回目は、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組みの基本的な考え方」を紹介する。

はじめに

近年、全国各地で激甚な被害をもたらす水災害が発生しているが、気候変動について、
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、1990年代から将来の気候変動の要因となる温室効果ガス濃度シナリオと気温等の予測が定期的に公表され、人間活動が及ぼす気候変動についての評価は報告書の改定のたびその確度が上がっており、気候変動問題は人類共通の喫緊の課題として認識されている。現在、見直しが進められている地球温暖化対策計画(案)においても、2018年10月に出されたIPCC1・5℃特別報告書からつぎの点が指摘されている。
「世界の平均気温が2017年時点で工業化以前と比較して約1℃上昇し、現在の度合いで増加し続けると2030年から2052年までの間に気温上昇が1・5℃に達する可能性が高く、現在と1・5℃上昇との間、及び1・5℃と2℃上昇との間には、生じる影響に有意な違いがある」
「将来の平均気温上昇が1・5℃を大きく超えないようにするためには、2050年前後には世界の二酸化炭素排出量が正味ゼロとなっている。これを達成するには、エネルギー、土地、都市、インフラ(交通と建物を含む)及び産業システムにおける、急速かつ広範囲に及ぶ移行(トランジション)が必要である」
「気候変動は、既に世界中の人々、生態系及び生計に影響を与えている」
「地球温暖化を2℃又はそれ以上ではなく1・5℃に抑制することには、明らかな便益がある」
「地球温暖化を1・5℃に抑制することは、持続可能な開発の達成や貧困の撲滅等、気候変動以外の世界的な目標とともに達成し得る」
また、本年8月に公表されたIPCC第6次評価報告書第I作業部会報告書においては、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないこと、世界中のほぼ全ての地域で命にかかわる被害をもたらす熱波・豪雨等の極端現象が増加したこと、また世界全体で2050年カーボンニュートラルの実現ができれば、気温上昇を2・0℃ではなく、1・5℃程度に抑えられる可能性が高まり、近年発生している50年や10年に一度と表現されるような極端な高温現象や10年に一度発生する規模の豪雨等の頻度を低くしうること等が示された。
さらに、2020年7月の「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方について(社会資本整備審議会答申)」においては、「実際、温室効果ガスの濃度は年々着実に増加し、豪雨の増加傾向も明らかになっている。平成30年7月豪雨では、昭和57年の長崎水害以来となるひとつの災害で200名以上の犠牲者が発生した。この豪雨の総降水量は気候変動により約6・5%増と試算され、気候変動の影響が既に顕在化していることが明らかとなった。」と指摘されているように、身近で具体的な課題となってきている。
こうした中で、我が国は、2050年までの脱炭素社会の実現を昨年10月に宣言した。また、2021年5月26日には、2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として規定する改正地球温暖化対策推進法が成立しており、我々は脱炭素社会の実現に向けてあらゆる努力を行っていく必要がある。
さらには、2021年4月22日に菅総理が表明した「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」という方針に関しては、9年間しか時間的な猶予がないため、現在、技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用してこれを実現することが大切である。

1、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた
取組みの基本的な考え方

2050年カーボンニュートラルの実現という野心的な目標を踏まえた住宅・建築物の目指すべき姿を示すに当たっては、その将来における住宅・建築物をとりまく環境、特にエネルギーの需給構造等を踏まえる必要がある。2021年7月22日に公表された第6次エネルギー基本計画(素案)によれば、「2050年カーボンニュートラルが実現した社会を正確に描くことは、技術開発等の可能性と不確実性、国際政治経済を含め情勢変化の不透明性などにより簡単なことではないが、現時点の技術を前提として、大胆に2050年カーボンニュートラルが達成された社会におけるエネルギー需給構造を描くとつぎのようなものとなる」としている。
「徹底した省エネルギーによるエネルギー消費効率の改善に加え脱炭素電源により電力部門は脱炭素化され、その脱炭素化された電源により、非電力部門において電化可能な分野は電化される」
「産業部門においては、水素還元製鉄、CO2吸収型コンクリート、CO2回収型セメント、人工光合成などの実用化により脱炭素化が進展する。一方で、高温の熱需要など電化が困難な部門では、水素や合成メタンなどを活用しながら、脱炭素化が進展する」
「民生部門では、電化が進展するとともに、水素や合成メタンなどの活用により脱炭素化が進展する。運輸部門では、EVやFCVの導入拡大とともに、炭素を活用した合成燃料の活用により、脱炭素化が進展する」
「各部門においては省エネルギーや脱炭素化が進展するものの、炭素の排出が避けられない分野も存在し、それらの分野から排出される炭素に対しては、DACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)やBECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage)、植林などにより炭素が除去される」
2050年に向けた道筋には複数シナリオの必要性が指摘されているところであり、2050年カーボンニュートラルの実現とは、住宅・建築物を含めた我が国社会全体でカーボンニュートラルを実現することである。また、住宅・建築物においては、その省エネ性能の確保・向上の取組みを進めることで省エネルギーを徹底しつつ、再生可能エネルギーの一層の導入拡大に取組んでいくことが求められている。加えて、建築材料等の製造、住宅・建築物の建設施工、廃棄時などに排出されるライフサイクルとしての温室効果ガスに関しても考えておく必要がある。

①2050年及び2030年に目指すべき住宅・建築物の姿
カーボンニュートラルの実現に関しては、ビジョン(あり方)を示すことと同時にその実行計画(進め方)を立案していくことが大切になる。2050年カーボンニュートラルが実現した社会を正確に描くことは、技術開発等の可能性と不確実性、国際政治経済を含め情勢変化の不透明性などにより簡単なことではないが、現時点の技術を前提とした2050年のビジョンとしては、徹底した省エネルギーによるエネルギー消費効率の改善に加え、脱炭素電源により電力部門は脱炭素化され、その脱炭素化された電源により、非電力部門において電化可能な分野は電化される。民生部門では、電化が進展するとともに、水素や合成メタンなどの活用により脱炭素化が進展する。こうした各部門の脱炭素化を進めることにより、住宅・建築物を含めた社会全体でカーボンニュートラルの実現を目指す。そのビジョンの実現のためには、住宅・建築物分野における省エネルギーと再生可能エネルギーの導入に関する実行計画が必要になる。
検討会では、2050年に目指すべき住宅・建築物の姿として、ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となることを目指す。
2050年のカーボンニュートラル実現の姿を見据えつつ、2030年に目指すべき住宅・建築物の姿としては、野心的な目標である46%削減目標の実現に向けて、現在、技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用し、新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されていることを目指す。

②国や地方自治体等の公的機関による率先した取組み

住宅・建築物における省エネ性能を高める取組みや再生可能エネルギーの導入拡大に向けた取組みについては、既存ストック対策等をはじめとしてコスト面や技術面での課題もある。また、国民や民間事業者の取組みを促す観点からも、国や地方自治体等の公的機関が建築主・管理者となる住宅・建築物において、徹底した省エネ対策や再生可能エネルギー導入拡大の率先した取組みを進める。
取組みを進めるに当たっては、「2050年までの二酸化炭素排出量実質ゼロ」を目指す自治体、いわゆるゼロカーボンシティが2021年7月末時点においては432自治体となっており、表明自治体の人口を足し合わせると、1億1千万人を超えていることも踏まえ、国と地方自治体等とが連携・協力するとともに、積極的な取組みを展開する地方自治体等の取組みを支援・横展開する。

③国民・事業者の意識変革・行動変容の必要性

地球温暖化対策としての省エネ対策や再生可能エネルギー・脱炭素電力の活用等について、国民や事業者にその必要性や効果、負担とメリットを理解してもらった上で、何をすべきかを具体的に伝える。
住宅・建築物分野における省エネの徹底や再生可能エネルギーの活用等の取組みについても、他の誰かがやるものではなく、事業者を含む国民一人ひとりに我がこととして取組んでもらうことが必要不可欠であることから、取組みの必要性や具体的な取組み内容をわかりやすく伝えるための伝達手段や方法を含めて検討し、早急な周知に努める。
特に住宅については、ZEH・LCCM住宅等の省エネ住宅の環境・省エネ面、快適性・健康面、経済面等のメリット・効果等のみならず、エネルギーの無駄遣いを減らすという観点から、省エネ性能の高い住宅を使いこなす住まい方の周知・普及もあわせて行う。また、行動経済学(ナッジ)の手法も活用して、消費者のよりよい選択につながるよう、住宅事業者等とも連携して情報提供を進める。
住宅等の性能に応じて暖冷房を行うなどの住まい方を実践することが重要である。例えば、暖房の全館・連続運転を行う場合は、住宅の断熱性を十分に高めなければエネルギー消費量が増大してしまうといったことがある。

④国土交通省の役割
脱炭素化は各分野において最優先に推進すべき重要課題の一つであることを踏まえ、住宅・建築行政を所管する国土交通省は当該分野における省エネルギーの徹底、再生可能エネルギー導入拡大に責任を持って主体的に取組む。
特に、住宅政策における脱炭素化の取組みである省エネ・創エネを組み合わせたZEHの普及拡大について、住宅行政を所管する立場として、最終的な責任を負って取組む。

電材流通新聞2021年9月23日号掲載