トップインタビュー 伸興電線 尾﨑勝社長

1千坪規模工場を本社に新設
耐火ケーブル38sq以上来春本格生産

 伸興電線 尾﨑勝社長


伸興電線の尾﨑勝代表取締役社長は、21年度の事業実績について、「グループ全体で78億円、うち伸興電線は73億円、カールコード5億円。グループ全体の営業利益はやや増益」と語った。22年度は増収の見通しで、「3~7月の建設向けの受注高は昨年度比で約5割増」とした。注力製品としては耐火ケーブルを挙げ、「サプライチェーンの問題で製造ラインの導入が遅れており、38、60、100sqの本格稼働は来春の予定」とした。また、「推定3・3mとされる東南海・南海地震による津波対策も兼ねて、本社工場内に1千~1千500坪の工場を新設する」と語った。


―御社ビジネスを取り巻く市場については?

「主軸の建設・電販は、大阪万博や都市再開発などの大型案件が控えており、さらに中長期的にみても需要は安定している。一方、当社では6~7割を占める市販マーケットは、新型コロナ感染症以降市場規模の縮小、資源の高騰、サプライチェーンの問題、人件費高騰などを抱えるなか、今後は更に中小事業者がコロナ特別貸付の返済問題に直面し、設備投資や事業拡大の際の、キャッシュフローが足かせになるのではないか。コロナ前の水準に戻ることを望んではいるが、中小事業者のなかには、事業を縮小したり、高齢化から事業継続を断念するケースが増えている。市販マーケットがここ数年どう推移するか、懸念している」

―日本カールコード工業のグループ会社化の効果は?

「通信や機器用電線、音響用電線などのアッセンブリー品を扱い、グループ会社化により新しい市場を開拓できた。また、販売面でも既存顧客に新たな提案を行い徐々に結果につながってきている。現在はコネクタ類が入手難で、新規受注への対応に苦慮しており、受注残が平時の3倍に膨らんでいる」

―21年度の事業実績は?
「グループ全体の売上高は78億円、うち伸興電線は73億円、日本カールコード5億円だった。グループ全体の営業利益はやや増益、伸興電線の販売銅量は前年度比で3%増、日本カールコードの売上高は前年並み、といったところだ」

―22年度の事業見通しは?
「銅価の高止まりが影響し、グループ全体の売上高見通しは約96億円。内訳は伸興電線が91億円、日本カールコードが5億円となる。販売銅量でみると前年度比約3%増を見込んでいる。
22年3~7月の建設向けの受注高は昨年度比で約5割増えている。銅価が高騰する前の2~3月が高く、3月は通常月の2・5倍の受注高だった。中・小型案件が多く、銅価が上昇する前の駆け込み需要だと分析している」

トラック重量制限に 自社契約便増で対応

―コロナやウクライナ情勢による物流への影響は?

「コロナ以前からの流通コストの高騰に加えて路線業者では、1ユーザあたり積載量500㎏までという重量制限がかかっている。各物流センターから小刻みに配送することや、重量制限の対象とならない自社契約便を増やして配送することで対応している。
例えば、東京―大阪間では相当数の配送トラックが走っているが、3%経済といわれる四国では、四国から出ていく配送量に対し、四国に入ってくる配送量が少ない。結果、四国に入ってくる積載量に見合ったトラック台数に減便している。香川の本社工場は生産に特化し、4拠点で加工、在庫管理、配送を行って効率化している」

 ―20年4月に新設した中部物流センター(岐阜県多治見市)の稼働については?

「中部物流センターから、埼玉県草加市の東日本物流センターを経て、東京23区の顧客向けに配送している。香川の本社工場から草加に配送するには、安全規制に則って、運転手2人かワンマンでの休憩を入れると15時間ほどかかる。これが岐阜から草加だと5時間で到着する。岐阜で切断作業のあと、夜に出荷すれば、翌朝5時に草加に着く。中部物流センターは東日本物流センターとの連携拠点としての役割りに加え、北陸・静岡への配送拠点として活用している」

 ―御社の注力製品・注力事業は?

「銅価はピークアウトして落ち着いてきたが、グループ全体の光熱費は高騰しているため、価格転嫁は命題となる。
注力事業として位置付ける消防用ケーブルの建設・電販向けにおける、国内シェアが3割を超えてきた。さらに安定した供給を目指す。
製品としては、耐火ケーブルに注力している。当初は22sq以下の生産だったが、消防庁の認定を受けて、現在は100sqまで生産している。しかし、サプライチェーンの問題で設備の導入納期が遅れており、完全に稼働していない。38、60、100sqの本格稼働は来春の予定だ。
安全基準がさらに高い1時間耐火ケーブルや小勢力回路用耐火ケーブルなどは、現状では顧客にとってコスト高となるが市場の動向を注視しながら順次製品化に向けて対応していくよう考えている」

 ―御社の中長期的な事業計画は?

「本社工場内に1千~1千500坪の生産拠点を新設する予定だ。内閣府の発表によると、東南海・南海地震による津波は推定3・3mなので、道路面より4mの高さに新設し、主力の押出ラインを移設していく。
人員に関しては、現在グループ全体で約220人の従業員がいる。増員については、当面は生産性の向上で対応するつもりだ」

障がい者の労働支援 5年前から実施

―カーボンニュートラルやSDGsへの取り組みは?

「地域貢献やリサイクルを意識した取り組みとして、県内の4つの障がい者施設に、電線スクラップの解体、廃材の仕分けなどの作業をしてもらい、その対価として、年間1千万円ほどをお支払いしている。障がい者の皆さんが持つ、働いて報酬を得るという意欲に応えている。5年前に始めた取り組みで、少しずつ障がい者施設を増やしているところだ」
―女性の活躍促進については?
「グループ全体で現在女性の管理職はいない。管理職候補として人材育成しているため、近い将来、女性管理職が誕生するだろう。大手企業のようにはいかないが、時間をかけて育成していきたい」

―最重要課題は?
「当社は創業して64期目を迎えるが、個別製品において伸興電線というブランド力を、顧客に浸透させたい。流通商社の意向に加えて、数多くのエンドユーザの皆様から当社の製品を指名いただけるレベルに持っていきたい。64年の歴史に甘んじることなく、当社と当社製品を市場で認知していただけるよう、今後も様々な施策に注力していく」

電線新聞 4294号掲載