三品業界への電線・細線メーカー、設備業界の進出が活発化している。中でも、医薬品製造や医療機器などに携わるメディカル業界へ向けた各社の進出意欲は旺盛だ。市場の裾野も非常に広く、手術に用いるカテーテルチューブや芯材、ガイドワイヤー、バンドルファイバ、手術用あるいは医薬品製造ロボットの配線材、病棟内に敷設される抗菌コード・ケーブルなど多様だ。ここでは、メディカル業界に参画する、各社の動きを紹介する。
近年、三品業界への電線・細線メーカーおよび設備業界の進出が活発化している。中でも、医薬品製造や医療機器などに携わるメディカル業界へ向けた各社の進出意欲は旺盛だ。その背景として、14年に薬事法から名称変更された「薬機法」の存在がある。同法は、医薬品・医療機器等の品質、有効性、安全性を確保することを謳っており、それに基づいた開発・治験、承認審査、製造、流通、使用の各段階で厳しい規制が行われている。医療大国としては先ず米国の名が挙がるが、厚労省はグローバル化の現状を踏まえつつ、医薬品・医療機器の安全確保を前提としたドラッグラグ・デバイスラグの解消を目指し、迅速な患者アクセスができるよう、審査制度の見直しを行ってきた。つまり、明文化こそしていないが、国が医薬品・医療機器の国内調達を重視していることは明白だ。また、市場の裾野も非常に広い。手術に用いるカテーテルチューブや芯材、ガイドワイヤー、バンドルファイバ、手術用あるいは医薬品製造ロボットの配線材、病棟内に敷設される抗菌コード・ケーブル、高解像度・高精細の医療機器向け通信ケーブルなど枚挙に暇がない。また、低侵襲治療の増加や手術の高度化でカテーテル・ワイヤーの細径化は進み、電子カルテ普及や遠隔医療の拡大などで通信ケーブルもさらなる高速広帯域化の要求が高まるなど、イノベーションの見通しも明確だ。よって、幅広い各種ケーブルベンダが、こぞってメディカル業界に参画しつつある。以下、各社取り組みの一部を紹介する。
自動車・半導体から
三品市場へ事業展開
国内FA・ロボット業界は、従来自動車および半導体製造ライン向けに偏っていたが、近年は少子高齢化による労働人口の減少や省人化を見据えて、自動車や半導体向けから三品市場への展開を進めている。当然、FA・ロボットケーブルメーカー・流通もそれに伴い、医薬品製造ロボットや医療用ロボットへの展開を開始しているようだ。ある電線商社は、AI、IoT用の第4次産業革命向け製品の展開は、FAロボットケーブルに注力するとした。また、大阪の電線メーカーは、新規参入事業として、EV向けの車載用ワイヤーハーネスに加え、医療機器用ケーブルを挙げている。
また、手術用のチューブやガイドワイヤーは、医療機器の小型化もあり、細線化、高屈曲性、柔軟性、外径均一化、強度、トルク伝達など、繊細で正確な技術が求められる。
共立は、マイクロカテーテル製造用に、超極細線用の高速度編組機「モデルSFBRD3」を展開している。同社の極細線用キャリヤーは、Φ0・008㎜のタングステン、SUS材などの超極細線の繰り出しが行える。同マシンを16台使用することで、超極細線を16本編み組みも可能だ。マイクロカテーテルのほか、マイクロチューブル類などの医療用途に適用されている。
HCIは、横型編組機(24打)を展開している。撚線機、伸線機、押出機などを手掛ける同社にとって、編組機の生産は初となる。同社の編組機は医療用バルーンカテーテル周りの編組用途で、太径40~50μm及び細径21~23μmの極細繊維2種を一工程で同時に編み込むことが可能だ。編組ピッチの乱れやローラーから外れた樹脂の断線対策として、従来のバネに加えてマグネット式ブレーキを採用。極細線ならではのインシデントに対して、卓越した張力制御機能で対応した。
エフ・エー電子は、医療向けケーブル・カテーテル加工メーカー向けの巻替装置「WBBC―01H―AU」を一昨年から展開している。海外でメジャーなスティーガー社仕様の編組専用ボビン用だが、カスタマイズで他社の様々な編組ボビンにも対応している。最大の特長は、一連のボビン交換作業が完全自動で行われる点だ。通常のボビン交換は、ボビン供給→巻付け→始端カット→巻取り→終端処理→排出の流れとなるが、従来は人間が巻始めの目視確認等を行う必要があった。一部作業ではなく交換一連の工程を完全自動化したのは、同社が業界初となる。
一方で、病院や医療・介護施設での衛生環境に着目した製品も多い。冨士電線は、抗菌仕様LANケーブルをラインナップに加えている。外被材料に抗菌剤を配合することで、細菌の増殖を抑制し、無加工製品と比較すると、細菌の増殖割合を1/100以下に抑える特長を持つ。
また、ドイツに本社を置くイグスは、医療現場向けの無潤滑で耐腐食性のあるすべり軸受と、特殊プラスチック製のエネルギー供給装置を取り扱っている。樹脂製ケーブルキャリア「エナジーチェーン」は、クリーンルーム向けにも対応し、手術室用機器、リハビリテーションシステム、画像診断機器などのケーブルの保護や誘導に使用されている。