スイッチひとつでお米が炊ける⁉︎
まだ薄暗いうちから起き出すと、かまどに薪をくべて火をおこし、水でといだ米を羽釜に入れて火にかけます。“初めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣いてもふた取るな”――炊き上がるまでは火加減を見ながら番をしなければなりません。魚も焼いて、みそ汁も作って、それから家族を起こします。昔は、炊事はもちろん家事全般が主婦の仕事であり、そして重労働でした。
「スイッチひとつでご飯ができたらいいのに」と、世の女性たちは思ったことでしょう。
そんな夢のような道具が登場したのは、日本が高度経済成長期に突入した1955(昭和30)年のこと。東芝の協力会社である光伸社が開発した「自動式電気釜」、つまり電気炊飯器です。
しかし、当初は消費者も販売店も「電気で米が炊けるの?」と半信半疑で、しかも高価だったため、すぐに売れたわけではないようですが、それでも発売から4年後には全国の家庭の約半数に普及します。寝ている間に炊飯できるこの画期的な発明品は、主婦の睡眠時間を1時間延ばしたといわれました。
ちなみに、値段は約3000円。大卒の初任給が1万数千円の時代です。
ロボットがたこ焼きを作る⁉︎
夢のような道具といえば、やはり『ドラえもん』でしょう。食べたい料理を瞬時に出してくれる「グルメテーブルかけ」は、ぜひどこかのメーカーが開発してほしいものです。
『ドラえもん』に限らず、子どもの頃に見た漫画や雑誌には料理を作るロボットがたびたび登場していました。未来の食事はメニューのボタンを押すだけで、ラーメンでもハンバーグでもステーキでも、なんでも好きな物がすぐに熱々で出てくるのです。まさにマンガの世界ですが、21世紀の今、それは現実のものとなりつつあります。
そう、日本は“ロボット先進国”です。食材の投入から調理、盛り付け、調理器の洗浄まで行う多機能タイプ、食材を切ったり鍋の中身をかき混ぜたりと、部分的な作業を担う補助タイプ、一つの料理を作ることに特化した単機能タイプなど、さまざまなロボットが飲食業界で活躍しています。きっといつか、家庭のキッチンにもやってくるのでしょう。
現在開催中の「大阪・関西万博」でも、飲食店をはじめ多様なシーンで人間とロボットの協働が展開されています。たとえば「たこ家道頓堀くくる」では、厨房ではなく店頭でロボットがたこ焼きにソースをかけ続けています。ロボットもお客さんも笑顔です。
人間を自動で洗濯する⁉︎
万博といえば、1970年の大阪万博にも夢のような道具が数多く登場しました。中でも注目の的だったのが、当時の三洋電機が出品した「ウルトラソニックバス」、通称“人間洗濯機”です。
未来的な流線形のカプセルに人が頭を出した状態で入ると、ジェットバスのように前後から温水が勢いよく噴出し、超音波で発生させた気泡が全身を洗ってくれます。最後には温風を吹き付けて乾燥までしてくれるという全自動風呂、まさに人間用の洗濯機です。万博の会期終了後は販売もされ、価格は約800万円だったそう。
残念ながら電気炊飯器のように実用化には至りませんでしたが、あれから55年後の「大阪・関西万博」にも“ミライ人間洗濯機”(株式会社サイエンス)が出品されています。
未来を切り開くには、人間の知恵と電気の力が欠かせないのかもしれません。