電力小売自由化特集

再エネ台頭な新たな潮流が芽吹き始めた電力市場

電力システム改革(電気事業法改正)の具体化が始まって3年目。電力市場には、再生可能エネルギーの台頭など、新たな潮流が芽吹き始めている。現状を報告する。

存在感示した広域機関

 電力システム改革が威力を発揮した。各電力会社の地域を越えた広域電力融通がこのほど、初めて本格的に作動したのだ。それを具体的に取り仕切ったのは、システム改革により2015年に発足した電力広域的運営推進機関(広域機関)だった。

広域機関が電力融通指揮

 1月下旬、強い寒波が日本列島を襲った。それにより暖房の使用が増加。東京電力管内の電力使用率は、需給のひっ迫と判断される95%にまで上昇した。このままでは停電などのトラブルもありうると判断した東電は23日の夕以降、広域機関 に他電力からの電気の融通を要請した。求めを受けた同機関は速やかに反応する。同日の21時30分および22時48分に、北海道電力から九州電力に至るまで全国の電力会社に供給時間、供給量を指示した。指示は以後、数次に渡って発令された。
 1月23日から2月2日までのうちの5日間だけで、合計9回の指示が行われている。なかでも2月1日には、15時27分、3時16分、21時44分と44回も行われた。電力の広域融通がきめ細かくスムーズに実施された様子がうかがえる。これらにより東電は、電力使用率がレッドゾーンに突入する危機を回避することができた。
 電力システム改革によって同機関に与えられた役割は、電力の安定供給の確保。日本全国の電力会社から、電気が足りない地域へ電気を供給してもらう(広域融通)のが務めだ。今回、同機関は、電力システム改革の目的のひとつが立派に作動しうることを立証して見せた。

電力が再エネを強く意識

 電力システム改革は1.電力の安定供給の確保2.電気料金の最大限の抑制3.電気利用の選択肢や企業の事業機会の拡大――を目的に掲げている。そのため15年には、広域機関が発足、16年には電気の小売り全面自由化が実施された。電力関連企業にとっては、意識改革を迫られたともいえる。ところがこれに対し、エネルギー業界の”巨人”といわれる電力会社の認識はいまひとつだった。それが、ここにきて、大きく変わろうとしている。再生可能エネルギーの潜在力の大きさに気づき始めたのだ。
 それを促しているのは、再エネの大量導入。電力需要が高まる夏になっても火力発電所のフル稼働もなしに太陽光発電などにより昼間の電力需要が賄われているためだ。電力会社の社員は、2017年を「初めて再生可能エネルギーを怖いと思った年」だと述べている(「ついに大手電力が『再エネは怖い』と知った」「日経エネルギーNext」1月5日)。
 人口減少や省エネの進展によって、需要の減少も進むと予測されている。少なくとも、数年前までのように右肩上がりで電力消費量が増えていくとは考えにくい時代になっているのだ。
 2018年以降、電力市場は徐々に構造的な変化が始まると見たほうがいいだろう。

ZEH、HEMSの比重高める電力システム改革

蓄電池・充電設備に光 求められる知識や技術

 だが電気工事業界がひるむ必要はない。決して電気そのものの必要性が否定されているわけではないからだ。ただ、時代の変化に合わせ、柔軟に対応を変えていくことは必須だろう。
 再エネに注目が集まる中で、分散電源化はより顕著になっていきそうだ。究極的には、電気の完全自給自足さえ提唱されることもある。もちろん、それは極論だとしても、太陽光発電などでつくる電気が、系統電力よりも相対的に重要性を増していくことは避けられないのではないか。
 余剰電力の買取りが終わり始める19年以降には、太陽光で発電した電気を電力会社に売るよりも、自宅で使ったほうが得だといわれる。電力会社の電気代よりも、自宅で発電したコストの方が安くなると予想されているためだ。
 そうなったときに輝きを増しそうなのが、蓄電池や電気自動車(EV)への充電インフラだ。それらは、自宅で発電した電気を有効利用するためには必須の存在となりそうだ。電気工事店は、いまからそれらに対応できる知識や技術を磨いておくことが求められる。
 冒頭の東電の事例では、工場などを対象とするネガワット取引も4日連続で実施された。ネガワット取引とは、電力需給がひっ迫したときに、アグリゲーターと呼ばれる専門家が電力会社から依頼を受けて、消費者に電気の節約を要請。それによって浮いた電気(ネガワット)を電力会社に提供する制度だ。ネガワットを提供した消費者には何らかの対価が支払われることになっている。
 ネガワット取引が本格化するようになれば、エネルギーを効率的に賄えるZEH(ネットゼロエネルギーハウス)や、その設備の中核となるHEMSなどが欠かせぬ要素となるはずだ。今はまだコストなどがネックとなり、動きは鈍い。しかし電力システム改革の進展は、確実にそれらの比重を押し上げていくことだろう。

電材流通新聞2018年2月22日号掲載