30年で大きな変化遂げた電設市場取り巻く環境
環境重視の時代に注目浴びるZEH
必須になったEMシステムが基本に
1989年に「平成」が始まってから2019年の「令和」改元まで30年。この間に、電設市場を取り巻く環境は大きな変化を遂げた。ここで改めて来し方を振り返り、そこから未来の市場がどのように変化していきそうなのかに想いを馳せてみたい。
照明 新光源LEDの登場
旧光源に取って代わり始めるLED照明
パナソニックLS社・スピーカー付ダウンライト
東芝ライテック・カメラ付きLED照明
平成が始まった直後の1990年代初頭にはバブル経済が崩壊、日本の社会に暗い影を投げかけた。そんな中、電設市場に光明をもたらしたのが新光源LEDの登場だった。高熱を光に変換する電球や、電子線を蛍光体に当てて可視光を得る蛍光灯とは発光原理を全く異にし、電気を通すと半導体そのものが発光するという仕組みを応用したものだった。それは人類史の中で長く続いてきた火、それに続く電気の光=電球・蛍光灯に続く、第三の光だった。
開発が遅れていた青色のLEDが1993年に世に出ると、すでに開発されていた赤色、緑色のLEDと混ぜ合わせて白色光をつくることが容易になり、2000年代にはLEDによる一般照明が本格化し始める。
幸か不幸かさらに決定的な弾みをつけたのは、2011年の東日本大震災だった。長寿命なうえ省エネ性能にも優れたLED照明は完全に旧光源に取って代わり始める。
電子機器でもあるLED照明は、旧光源では不可能だった瞬間点灯、瞬間調光を可能にする。それによって、自在に色を変えるイルミネーションなどが世界的に行われるようになり、光の制御は時代の主流に育ってきた。電子機器の進化にともない、照明もまた、それにともなう変化を遂げていくのだろう。
“賢さ”増す家電機器
IHクッキングヒーターやエコキュートなど「賢い」家電も登場
パナソニックLS社・XJシリーズ
三菱電機・三菱エコキュート
1950年代後半以降の高度成長時代には、“三種の神器”(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)や“新・三種の神器”(カラーテレビ・クーラー・自動車)がもてはやされた。明日は今日より生活が良くなる、とだれもが信じている時代だった。
ところが、70年代の二度に及ぶ石油ショック、90年代初頭のバブル経済崩壊を経て、社会は低成長時代に入る。世の中の雰囲気は変わり、環境などが重視されるようになった。
IHクッキングヒーターに続くエコキュートは、空気を圧縮・高温化し、その熱を水に伝える、地球に優しい給湯器として、“環境の世紀”といわれる2000年代に入ってから順調に普及してきた。
そうした流れのなかで、新たに注目されるようになってきたのが、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」だ。その付属機器や周辺機器として欠かせないのが、HEMS対応分電盤や家庭用蓄電池、電気自動車(EV)、双方向型EV充電器といえる。
それらが従前の製品と質的に異なるのは、単体ではなく、システム化が基本という点だ。お互いがつながりあうことで、より大きな機能を発揮する。PVで発電した電気を上手に使って電気代を下げたりするためにも、エネルギーマネジメントは必須になる。
すでに電材市場では、スマートフォンで家電を操作したり、そのための機器や分電盤が出始めていたりするという。すべてのものをインターネットにつなげていこうというIoTの時代には、家庭の電気機器製品はますます情報通信機能を高めていくに違いない。
PV・電力システム改革
エネルギーマネジメントも必須に
パナソニックLS社・AiSEG2
太陽光発電は売電から自家消費へ
地球に優しい再生エネルギーとして、太陽光発電(PV)は短期間で全国に普及。FIT制度(余剰電力および固定価格買取制度)は、それを効果的に後押しした。早くから積極的にPVに取り組んできた電気工事業者のなかには、顕著な経営効果を上げているところも見られる。
東日本大震災後、“安定した電力供給”などを旗印に、電力システム改革もスタート。2015年に電力広域的運営推進機関が発足、16年には電力小売全面自由化が実施され、20年には配送電部門の法的分離、電力料金規制の撤廃が予定されている。
PVは今年末ころから買取期間を終了する需要家が出始める。以後、売電価格も下がっていくことから、電力会社の料金より安いコストで発電した電気は、自家消費した方が経済的なメリットが生じる。効率的な自家消費には、家庭用蓄電池や電気自動車(EV)、双方向型EV充電器などが欠かせない。電気工事業者はいますぐにでもそこを勉強し、買取期間終了後に備える必要がある。
同時にそれは、電力システム改革とも密接に関連してくる。例えば、電力の需給がひっ迫した場合、専門業者が電力会社の要請を受け、一般需要家に節電を要請、節約された電気を電力会社に提供するデマンドレスポンスのサービスなどが具体化してきそうだ。需要家とすれば、無理のない節電を行う上で、HEMSのようなエネルギーマネジメントは必須になってくる。
急激なデジタル化の時代
急激なデジタル化で世の中は一変
平成が始まって間もない1990年代半ば、携帯電話の通信方式はアナログからデジタルに移行。以後、世の中のデジタル化は猛烈な勢いで進む。この間に世界のコンピューティングパワーは約205万倍になったとされる。それは、従来1年間かかっていたコンピュータ計算がわずか15秒に短縮されたことを意味する。スマートフォンなどのモバイルツールやクラウド技術の普及により、データ量は指数関数的に膨れ上がり、モバイルネットワークのキャパシティは同期間に100万倍に膨張した。
今後も技術の進化がこれまでと同様のペースで推移するかどうかは分からない。けれども今後の電設市場に想いをいたすとき、このわずか30年の間に世界がこれだけ様変わりしたという事実だけははっきりと認識しておく必要があるだろう。