そこが聞きたい 矢崎エナジーシステム 河合良修執行役員電線事業部長

20年6月期通期見込み 売上873億円(4%減)も増益
建販再編で過当競争避け利益体質重視


矢崎エナジーシステムの河合良修執行役員電線事業部長は、電線事業部(非連結)の20年6月期(19年7月~20年6月)の通期業績見通しについて「通期売上高は銅ベースの下落で873億円(前年度比4%減)だが、利益面では増益を見込む。販売価格は安定しており、顧客第一を主眼としながら今後も無理な販売に走らずに適正価格を継続する。上期は前年同期と今年度の計画を上回るペースだが、新型肺炎と銅価の影響で、残りの数カ月で売上高や収益等が変動する可能性があり、楽観視できない」と述べたうえで、次期計画は「電線の出荷量のみを追わず、コストや物流費等を含めた適正利益の確保を重視し、販促戦略や生産プランを組む方針は変わらない」と述べた。建販市場再編に対しても「他社との過当競争を避けて、利益体質を重視し、『矢崎らしい営業』スタイルでいく」とした。


―20年度の抱負から伺いたい。

「当社では建販電線などで新たに設備投資を実施し、顧客満足度の向上のために一層細やかなサービスを行うなど、建販分野に軸足をおき事業展開している。

電線の市場環境が変化し、営業面での差別化が必要となるなか、当社ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、ICT(情報通信技術)などの導入により、電線事業の業務効率を向上させ、空いた時間を活用して、インサイド(内勤営業)とアウトサイド(外勤営業)の両面で独自の強化・充実を図る。外勤営業がフェイス・トゥ・フェイスで顧客に寄り添いながらニーズを掘り起こし、内勤営業がそれをサポートしながら、顧客第一を主眼に無理・無駄・ムラがないよう電線事業を運営したい」

五輪や首都圏再開発でエコ電線、高圧CVの生産ラインはフル稼働

―建販電線市場の現状と、20年度以降の電線市場見通しは?

「建設電販市場は、首都圏を中心に東京五輪や再開発などが活発だったため、エコ電線や高圧CVなどを筆頭に、生産ラインのフル稼働が続いた。五輪向けの主な需要は19年度一杯で終了するが、首都圏再開発や電鉄がらみの需要に加え、公立小中学校の空調の整備によるエコ電線の需要も、来年度までは継続するだろう。特に空調整備は、都道府県ごとに設置率や設置スピードに差があるため、地域ごとの需要に適切に対応する。

また、人手不足で工事作業者が不足し、ゼネコンの工事現場では遅れ気味の計画もあるが、完工期限を過ぎることはあまりない。電線納入のピークは完工時期に集中することが多いため、在庫が増え切断加工費や配送費もかなりかさむ。

ただ、建築現場にも新型肺炎拡大の影響が出てくると先が読みにくくなるだろう。

一方、新型肺炎が拡大する前の見方では、関東の再開発物件は20年度上期までは現状の大型案件の約6割の需要が継続。続いて20年下期~22年上期にかけて一休みし、22年下期~25年にかけて再び活性化するととらえていた。

一休み期間も倉庫やデータセンター、GIGAスクール構想による文教向けなど別分野での需要も見込まれ、極端な需要減はない見通し。また、活況な現状でも電材分野で地域差があり、関東・中部・関西を除く地方では前年実績を下回っており、懸念が残る」

―電線事業部(非連結)の20年6月期の通期業績見通しは?

「20年6月期(19年7月~20年6月)の通期計画では、販売銅量は8万2千㌧で、前期(18年7月~19年6月)をやや下回る見込みだった。しかし、同上期(19年7月~19年12月)が前年同期を上回ったため、通期ではほぼ前期並みの約8万4千㌧になるとみている。建販電線(量)のうち市販が7割、電設3割で、最近、少しずつ電設向けのウェイトが増えている。通期売上高は銅ベースの下落によって873億円(前年度4%減)だが、利益面では増益を見込む。販売価格は安定しており、今後も無理な販売に走らずに適正価格を継続する。営業の差益確保と、販売量確保による生産サイドの収益によって、上期は前年同期と今年度の計画を上回るペースで推移した。

ただ、猛威を振るう新型肺炎および銅価の影響によって、残りの数カ月で売上高や収益などが変動する可能性があり、楽観視できない。いずれにしても一日も早い新型肺炎の沈静化を願ってやまない。

各部門で収益改善を早期に実施し、電線事業部だけでなく全社での利益拡大を目指す」

―来期(21年6月期)の事業計画は?

「これから事業計画を練る段階であり、まだ決まっていない。沼津製作所で生産ラインを新設し、建販電線などの生産能力増強を図り、それに適した受注は推進する。ただ、電線の出荷量のみを追うのではなく、コストや物流費などを含めた適正利益の確保を重視したうえで、販促戦略や生産プランを組む方針は変わらない。

つまり、マーケットインで考えながらも、受注した製品内容に見合った収益を確保しながら、事業を展開する」

タイ経済は底打ちも反応鈍く、周辺国の日系案件へ拡販注力

  ―タイ矢崎電線(単独)の展開は?

「タイ経済の低迷は底打ちしたとみる。しかし反応はまだ鈍く、19暦年におけるタイ矢崎電線の銅電線販売量は計画比5%減となった。その後、BOI(タイ投資委員会)や日系・ドメスティックの需要ともに上向いており、20暦年の銅電線販売量は前年度比5%以上の増加を見込んだものの、現地ローカル顧客向けが伸び悩み、20年1~3月は低調に推移している。ただ、並行してカンボジア、ミャンマー、ラオスで、日系案件モノを中心に拡販に注力しており、少しずつ結果が出てきた。

また、生産拠点の展開については、タイ周辺国は現状では大規模電線工場を建設するような市場規模ではないと考えている。進出先の現地ローカル電線メーカーと組んで事業展開することを検討している」

―ところで注力製品については?

「寒冷地向け『やわらか電線』を北海道と東北地区で市場投入しており、今後は全国展開を検討している。また、各種電線の施工性や柔らかさの向上を追求していく。さらにVVFのブレークスルーも目指している。続いて独自のタイ矢崎製・アルミ電線の製品化だ。電力はもちろん建販分野をターゲットとし、いつアルミ電線の需要が大きく動き出してもいいように、準備は進めている。他には、非電線で高圧ケーブル活線診断装置があり、製品販売だけに留まることなく、レンタルサービスなども企画している」

―営業の人材育成については?

「魅力ある若手営業担当者の育成プログラムに7年前から取り組んでいる。このプログラムでは、カンボジアなどのASEAN地域に日本から派遣された営業担当者が、現地スタッフなどと一緒に営業開拓等を行う。営業担当者は3人ずつ派遣され、3年間かけてタイ以外の数カ国の拠点を担当する。現地での営業は、電気のないところに電線を売る意気込みが必要である。実際、ミャンマーの電化率は現状では4割台、この派遣プログラムを開始した頃は2割程度だった。派遣された営業担当者は、言語、文化、商習慣、インフラ整備状況が異なる販路なき国で、顧客を増やし商流を切り拓き、一回りも二回りも成長して日本に戻ってくる。また、苦楽をともにした派遣先の日系企業の人たちと、戦友のような人脈を築いて帰国するケースも少なくない。派遣された本人にとって貴重な経験になり、当社にとっては得がたい人材(人財)になる」

営業部全員で利益意識高め、販売価格の適正化へ

―商習慣の改善については?

「商慣習改善や適正価格への取り組みは数年前から実施し、営業努力により利益率などの改善を進めている。今後もこれを維持、向上するとともに、一段と厳しくなる物流環境において、顧客の理解を得ながら、体質改善をさらに推進する。

また、競合他社との差別化を図るため、代理店や工事店が求めるQ(品質)C(コスト)D(納期)に一層的確に応えるだけでなく、潜在需要の掘り起こしにも傾注する『新営業戦略』の検討を進めている。営業差益だけでなく、経費や生産コストも含む事業部全体の収益を、営業部全員が理解することで、利益意識が高まり販売価格の適正化と安定につながる。これからも今までの先入観に左右されず、説明責任を果たし、商慣習改善に傾注していく」

―切断加工費や物流費アップへの御社の取り組みは?

「2年ほど前から、物流費と電線の切断加工費の負担や、法改正にともなう荷下ろし業務の一部顧客負担を要請している。こうした取り組みは、適正マージン確保とは別枠で進めている。切断加工や物流が集中する時期においては、特に重要といえる」

―建販分野での統合再編の影響は?

「当社は『やわらかCV電線』を展開して以来、建販市場でのシェアを拡大し、トップに立った。一時的にトップを譲ることがあったとしても、他社との過当競争を避けて、利益体質を重視し、『矢崎らしい営業』スタイルで首位奪還を目指したい」

 ―御社の最重要課題は?

「収益改善である。それには営業・生産・開発・事業部が連携し、『売る』『買う』『作る』『運ぶ』『雇う』を、いかにベストミックスできるかがカギとなる」

電線新聞 4194号掲載