ここ数年、堅調に推移している換気扇市場は、昨年も金額ベースで前年を超えた。コロナ禍のなか、他の電材商品が軒並み厳しい状況にあるのとは対照的に、換気扇市場は特異ともいえるほどの好調ぶりを示している。その原因やメーカー各社の商品提案の切り口などについて探ってみた。
日本電機工業会が発表した資料によると、昨年12月の換気扇の国内出荷実績は数量ベースで前年同月比102.0%、金額ベースで同106.6%となった。2020年度上期は数量ベースで前年同月比95.4%、金額ベースで同98.7%だったが、2020年暦年では数量ベースこそ前年比98・2%だったものの、金額ベースでは同101.6%と前年を超えるほど好調に推移した。コロナの影響で他の電材商品が前年比10%〜15%の落ち込みを見せるなかでのこの数字は特異なものを言える。
換気扇市場はここ数年、堅調に推移しており、密接に関連する新設住宅着工件数が伸び悩むなかでも堅調に推移してきた。
換気扇市場が安定しているのは、非住宅分野での伸長も見逃せない。物流業などの設備投資により、倉庫などへの高単価機種の納入が好調だという。また、住宅分野においても、人口減や高齢化などにより、新築が期待できないなかで、各メーカーでは、リニューアルや新たなニーズに的確に対応し、堅実な市場開拓を行ってきた。
コロナの影響で室内の空気質への関心高まる
さらに、直近の動きで注目すべきなのは、コロナの影響で室内の空気質への関心が高まってきたことだ。テレビや新聞などのメディアにおいても、換気の重要性が取り沙汰されることが明らかに増えた。冬場になり、熱交換型換気扇の需要も増えてきていると聞く。換気扇業界が長年にわたって換気の重要性についての啓蒙に取り組んできたなかで、なかなか動かなかった山が、思わぬ形で動いたとも言える。この機を逃さず、換気扇を中心とした空気質の向上についての総合提案を行い、さらなる啓蒙を進めることが重要だ。
高単価機種が好調
各メーカーでは、省エネ、リニューアル、空気質の向上、高付加価値化など、様々な切り口で市場のニーズをいち早く取り入れ、積極的な製品開発と提案を行っている。とくに、「空気質」と「健康」、さらにZEHやスマートウェルネス住宅などをキーワードにした製品開発が目立つ。
各メーカーの具体的な提案をみると、パナソニックエコシステムズでは「住宅・非住宅ともに、当社が従来よりその重要性と向上を訴求提案してきたIAQ(室内空気質)が、今や国民レベルで語られる市場環境になってきている」(高橋正人IAQビジネスユニット営業部営業企画課係長)とし、「いい空気」を実現するIAQソリューションを訴求展開している。単純に要求される換気風量を満足させるだけではなく、その機器(モノ)によってもたらされる高い空間空質価値を「コト」の変化として実現できれば、厳しい市場環境においても新たな需要創造につながると考えている。
昨年11月のIAQ事業戦略説明会で小笠原卓社長は、今後目指す事業成長について「現状展開が少ない非住宅分野でけん引するなかで2025年度の非住宅構成比を40%まで引き上げたい」と述べたうえで、具体的取り組みとして「空間ソリューションによる体験価値の向上」「次亜塩素酸によるウイルス抑制」「持続社会における水事業の創出」を掲げている。
商品としては、大きく拡大しているのが住宅用熱交換気システムIAQ制御搭載モデル。風量幅も拡大し一般的には1フロアー1台設置が多いが、住宅の床面積によっては1台で全館対応も可能で、季節にあわせた快適運転によって省エネ性と快適性を両立する。縦置き設置によって手元でのメンテナンスも可能となり、全機種DCモーターとPM2・5対応フィルターを標準とする。
また、後付け可能なナノイーX付業務用熱交換気ユニット床置形の受注をこのほど開始。既存店舗や施設にも後付け可能な省施工タイプで、不特定多数出入りする各種店舗やオフィス、介護施設など非住宅における密閉空間の換気対策に推奨する。快適な温度と湿度を保ちながらCO2濃度センサーで室内の込み具合をセンシングして風量を自動調整し、ナノイーX搭載で外気(OA)、給気(SA)、還気(RA)の3つのフィルターと合わせてきれいな空気を十分に取り入れる。
パナソニックエコシステムズIAQ事業戦略説明会より(昨年11月)
パナソニックエコシステムズが新設した小型クローズ空間「Reboot Space Ⅱ」
三菱電機では、新型コロナウイルス感染拡大を契機に、改めて政府による換気の重要性啓発が展開されているなか、「豊富なラインアップを強みとした、コロナ禍における様々な換気・空清提案を展開している。特に3密対策としての確実な換気の実践と、それに伴う空調エネルギーロスの抑制に向けた対策が同時に求められる背景にあって、高機能換気設備であるロスナイでの提案を一層強化して取り組んでいく」(永石俊郎中津川製作所営業部電材営業課課長)。
商品としては、昨年11月にダクト用換気扇の新商品として業界で初めてCO2センサーを換気扇本体に内蔵した「CO2センサー搭載タイプ」を発売した。CO2センサーが在室人数に応じて増加するCO2濃度を検知し、自動で換気風量を上げることで換気の悪い密閉空間を改善する。在室人数が少ない時にはCO2濃度減少を検知し換気風量を抑えた弱運転に自動で切替え、過換気による空調エネルギーロスを抑制するだけでなく高効率DCブラシレスモーター搭載によってACモーター搭載機種に比べて換気扇の消費電力も抑える。
また、先ごろ発表された2020年度省エネ大賞で全熱交換形換気機器「業務用ロスナイ」が省エネルギーセンター会長賞を受賞した。DCブラシレスモーターの搭載で給気・排気の換気風量を従来の3段階から11段階に多段階制御化し、CO2センサー装着時には室内のCO2濃度に応じて外気流入量を必要最小限に自動調整することで空調負荷を軽減する。
省エネ大賞・省エネルギーセンター会長賞を受賞した三菱電機・業務用ロスナイ
東芝キヤリアでは、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、省エネ、健康、快適をキーワードに換気の有効性を提案し、需要の拡大に努める。「ウイズコロナ時代における空気質の向上をモットーにエンドユーザーや工事店様、設計サイドの皆様に対して付加価値が提案できるように商品開発を進める」(宮原淳換気・ホームソリューション営業部換気企画担当参事)。
具体的な商品としては、ダクト用換気扇「ツインエアロファンシリーズ、羽根径10㎝・14㎝サイズ」の本体鋼板製タイプのラインアップを拡充。昨今の節電意識の高まりによる省エネや換気扇の基本性能である換気風量アップと快適さを損なわない運転音との両立、性能を維持するためのメンテナンス性をさらに向上させた商品として注目されている。
浴室換気乾燥機「バスドライ」シリーズは、昨今の節電意識の高まりに応えるべく、省エネ性や衣類乾燥の仕上がり品質や施工性に優れる。長期使用製品安全点検制度に基づく点検時期をリモコン表示でお知らせする機能や絶縁防水型PTCヒーターの採用により、安全性を高めている。
変わりつつあるユーザーニーズに対応しながら、様々な切り口で活路を見出している換気扇市場。大きな追い風が吹くなか、第一種換気への回帰をしっかりと提案することが今後の換気扇市場にとって大きなポイントになるだろう。
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