重要性を増す感震機能
国土交通省が発表した2017年度の新設住宅着工戸数は、前年度比2.8%減の94万6396戸と3年ぶりのマイナスになった。ここ数年来、相続税対策で増えていた賃貸アパートの建築が一服したのが主な要因である。今後も住宅建設を取り巻く環境は厳しい。住宅着工と密接な関係にある住宅用分電盤の動向を追った。
戸建住宅(大阪府吹田市)
住宅着工件数が伸びないなかでのホーム分電盤の営業はむずかしい。とはいえ、分電盤は住宅には欠かすことができない設備である。メーカーによれば前年をほぼキープしているところもある。住宅着工が減っているなかで、それほど落ちないで前年をキープしているのは、積極的な営業が功を奏したとも考えられる。
今後も着工数がそれほど期待できないなか、前年をキープするにはリフォーム・リニューアル市場に上手く入り込んでいく必要がある。ここ1年間の市場を見渡せば分電盤全体の市場としてはそれほど減っていないようにも感じられる。
今後の見通しについても、リニーアル市場が鍵を握っているとも言える。都心部を中心に築20年以上経つマンションはいたる所にある。従って、ここらへのアプローチが今後の売上げを大きく左右すると言っても過言ではない。
では、築年数が経過したマンションなど集合住宅への営業はどのように行っているのであろうか。
大阪市都心部で建築が進むタワーマンション
リフォーム市場への開拓としては、やはりマンションの管理会社へのアタックとなる。デベロッパーが子会社としてマンションの管理会社を持っているケースが多い。
20年以上経過する「リニューアルの在庫」は今後、急激な数で増えていく。メーカーとしてはここらを代理店と一緒になって営業活動をすることが生き延びる途になりそうだ。ただ大型マンションになるとリニューアルをするにも相当な時間がかかる。管理会社がマンションの自治体と話し合いを重ねて進められるのだが、数年以上はかかる。ただマンションの住人・オーナーもリニューアルをしておかないと資産価値が下がる。
資金はかかっても塗装などを含めリニューアルは絶対に必要である。配線改修時の工事に乗っかって分電盤の交換を提案することが求められる。ただリニューアルするにしても、当初に取り付けたメーカーを優先させるケースが多く、ここらのシェアをどうとるかも課題だが、コストありきなのでいちがいには言えないが、やはり当初付けたメーカーが強いのは間違いなさそうである。だからといって、コスト競争のみに走るのでは自分で自分の首を絞める結果になる。
分電盤統計(産業用・住宅用)
「防災」 「スマート化」キー ワードに付加価値高める
時代に合った販売 戦略が求められる
ところで、感震機能付住宅用分電盤はほぼ前年と同様に推移している。関西では神戸市内の施主・デベロッパーが感震機能付を望むケースがある。またリニューアルの際に付けようといったユーザーも2、3割はあるようだ。
管理会社がリニューアルの時に一緒にやろうというケースもあり、メーカーも管理会社にPRすることを強く求められる。
地区別では、首都圏は伸び悩んでおり、関西は横ばい、名古屋地区は好調といったのが大方の見方だが、メーカーによって戸建住宅に強い、集合住宅に強い、ハウスメーカーに強い、URに強いと得意分野がわかれる。ただ気がかりなのは来年の10月に予定されている消費税アップである。現在のところ、駆け込み需要がどれだけあるかの予想は難しい。
ともあれ、様々の状況を踏まえ分電盤メーカーも開発に余念がない。
パナソニック エコソリューションズ社は近年、ZEHやHEMS、IoTへの関心が高まるなか、同社も「スマートコスモ」の機能を拡張させ、利便性向上を図った分電盤の普及に注力している。
また、地震後の電気復旧時に起こる火災事故防止が期待されている「感震ブレーカー」も新築・既築向けにラインアップを拡充させ、業界・自治体を巻き込んで採用を促進する。
テンパール工業が注力しているのは「グラグラガード」である。感震機能付住宅用分電盤と同様、感震関連商品で、コンセントに簡単に取り付けることができ、コンセントの箇所で通電を遮断しコンセントに接続した電気機器のみを遮断可能とした。地震が起きた時の電気使用の安全性向上に貢献する商品である。
この製品は、昨年のJECA FAIR製品コンクールにおいて、労働安全衛生総合研究所長賞を受賞した。
日東工業は、感震リレーとブレーカーを一体化した「感震機能付ブレーカー」に力を入れる。
感震リレーを主幹ブレーカーのヨコに取り付けることで分岐回路スペースを使わないことがひとつと、増設用タイプは既設分電盤の一次側に取り付けることで全てのメーカーのホーム分電盤にも取り付けが可能ということ、さらに3軸加速センサーの採用で感震機能付ブレーカーを横向きでの接置も可能で商業用にも使える特長がある。
同製品は、昨年のJECA FAIR製品コンクールで日本電設工業協会・会長賞を受賞した。
河村電器産業は、新たなビルや商業施設は「防災」と「スマート化」がキーワードになっており、こうしたものに付加価値を高める製品開発に力を入れている。
具体的には、以前から開発を進めている感震ブレーカー機能付ホーム分電盤や感震コンセントを含む「感震総合システム」である。地震が発生すれば全ての回路を即遮断するのではなく、一定時間後に電灯を遮断する。あるいは電気ストーブを入れている回路は即遮断というように、個々の回路を適切に組み合わせて遮断できるようなシステムである。
人口減少時代を迎えた今日、あらゆるモノが供給過剰となる。住宅も人が住まない「空き家」がものすごい勢いで増えている。
総務省の調査によると2013年時点の空き家は820万戸で10年前と比べ24%増えた。しかしながら大都市の中心部ではタワーマンションの建設は止まりそうにない。
マンションが建ち始めてから40〜50年になる。築40年を超すマンションも2016年時点ですでに63万戸におよぶ。
20年以上経過しリフォームが必要なマンションも膨大な数が予想される。手をいれなければならない「リフォーム在庫」は大きなものが期待される。
国策や住宅会社などの方針によりZEHやHEMS、IoTといったトレンドに注目が集まり、これらに対応した住宅用分電盤も伸長していくことが考えられる。また、地震・震災対策としての感震機能付の住宅用分電盤も数量的にはまだまだの感はあるが着実に伸びがありそうである。
販売ターゲットは変わってきそうだが、時代にあった販売戦略が求められる。