「あの人はトイレの100ワットだね」
「どうして?」
「無駄に明るいからさ」
一歩間違えればハラスメントになってしまいそうな、わりとよく知られたジョークというか例えです。転じて“不必要なもの”という意味になるそうですが、最近はLED照明なので、「あの人はトイレの1000ルーメンだね」と言わなければ伝わらないかもしれません。
ワット驚く電力の単位
「ワット」は私たちの暮らしに身近な単位ですが、調べてみるとけっこう小難しく、要約すると――仕事率・電力の単位で記号は「W」。1Wは毎秒1ジュールの割合で仕事をするときの仕事率(1W=1J/s)であり、また、1ボルトの電圧で1アンペアの電流が1秒間に消費される電力(1W=1V・A)をいう――のです。さあ、これ以上、深入りするのはやめておきましょう。
皆さんご承知のとおり、ワットさんの名前から取った単位名です。
by Carl Frederik von Breda,painting,1792 ジェームズ・ワットの肖像画
イギリスの発明家であるジェームズ・ワット(1736~1819年)はしかし、電気に関する何かを発明したわけではなく、18世紀に蒸気機関を改良し普及させた功績などが認められた結果、仕事率および電力の単位としてワットの名前が使われるようになりました。本人が知ったらきっと驚くでしょう。
アンペールさんにボルタさん
前述の「アンペア」も「ボルト」も人名由来です。
アンペアは、フランスの物理学者であり数学者であるアンドレ=マリ・アンペール(1775~1836年)にちなんだ単位名です。アンペールは電流と磁場との関係を明らかにする「アンペールの法則」を発見しました。
アンドレ=マリ・アンペールの肖像画
アンペアとは電気の流れる量(電流)を表す単位で記号は「A」。身近な例としては電力会社との契約アンペア数があります。20Aや30Aなど、最大電流容量を示すと同時に使用できる電力の上限を表すものです。
例えば、エアコンをつけて、洗濯機を回して、テレビを見ていたら小腹がすいたのでピザを電子レンジでチンしたらブレーカーが落ちた、という経験はないでしょうか。それは電化製品を一度に使い過ぎて契約アンペア数を超えてしまったからです。
電圧を表す単位のボルト「V」も、イタリアの物理学者であるアレッサンドロ・ボルタ(1745~1827年)の名前にちなんでいます。ボルタは世界初の電池とされる「ボルタ電池」を発明しました。
アレッサンドロ・ボルタの肖像画
日本の一般的な家庭やオフィスの電圧は100Vです。一方、通常のコンセントの許容電流は一つ口でも二つ口でも15A以下です。ボルト(電圧)×アンペア(電流)=ワット(電力)となるため、一つのコンセントで使用できる電化製品は1500Wまでということ。
電気に関する単位名はその他にも、オーム(電気抵抗)、クーロン(電荷)、ジーメンス(電気伝導率)、ジュール(エネルギー、仕事、熱量)など、人名由来のものが数多くありますが、それはまたの機会に。
日本人名が付いた単位もある
電気関連ではありませんが、日本人の名前が付いた単位もちゃんと存在します。
その名も「ユカワ」、単位は「Y」。そう、日本人で初めてノーベル賞を受賞した物理学者の湯川秀樹(1907~1981年)博士にちなんでいます。
出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)
ユカワは素粒子・原子核物理学で用いられる長さの単位で、1ユカワは10兆分の1(10のマイナス15乗)メートルを表します。……凡人にはよくわかりませんが、同じ日本人としては誇らしく思えますね。
ちなみに、ユカワと同じ単位を「フェルミ」ともいい、こちらはイタリアの物理学者エンリコ・フェルミの名前にちなんでいます。つまり、1ユカワ=1フェルミなのだそう。しかし、どちらにしても残念ながら現在はほとんど用いられていないのだとか。
もう一つ、「Fスケール(藤田スケール)」という単位もあります。これは、竜巻や突風の強さを分類する等級であり、現在も世界で広く用いられているようです。竜巻の研究で世界的権威として知られた気象学者の藤田哲也(1920~1998年)博士が提唱しました。
あと今後は、「オオタニ」という名前が野球において規格外のスケールを表す単位か何かになってほしいものですね。電気とまったく関係ありませんけれど。