エネルギーを収穫する
皆さんご存じの通り、私たちの身の回りには目に見えない微生物が無数に存在しています。身の回りどころか、人間の皮膚には1兆個もの細菌がいるというから驚きです。そしてもう一つ、私たちの周囲に多く存在しているけれど目に見えないもの、あるいは意識していないものがあります。答えは、エネルギーです。
私たちを取り巻く環境には、実は使われていない微弱なエネルギーがたくさんあるのです。例えば、光、熱、振動、電波など。それらの小さなエネルギーを集めて電力に変換する技術を「環境発電」または「エネルギーハーベスティング」と呼び、さまざまな分野で研究開発が進められています。
もう少しわかりやすく言うと、今、部屋を明るくするため“だけ”に使っている照明の光を集めて、他のことにも利用しようというもの。ハーベスティングの「ハーベスト」とは「収穫」という意味です。
環境発電(エネルギーハーベスティング)のエネルギー源の一例
「光」……太陽光の他、白熱灯や蛍光灯、LED等の照明の光など
「熱」……屋内と屋外の温度差、人間の体温、機械等が発する熱など
「振動」…人や物が動くときに発生する振動など
「電波」…テレビやラジオ、携帯電話、無線LAN等の電波など
オラに元気をわけてくれ!
「だ…大地よ海よ、そして生きているすべてのみんな……このオラにほんのちょっとずつだけ元気をわけてくれ…!」
漫画『ドラゴンボール』の主人公、孫悟空はいよいよピンチになると、こう言って地球上の自然や生物から少しずつ元気をもらい、巨大な「元気玉」をつくって敵にぶつけます。この悟空の必殺技こそが、まさに「エネルギーハーベスティング」なのです(たぶん)。
エネルギーハーベスティングの発電量は、太陽光発電や風力発電に比べると極めて小さなもの、というか比べものにならないほど微小ですが、周囲の環境からエネルギーを“収穫”するため地球に優しいことはもちろん、大規模な設備はおろか配線も電池も充電もなしに電力を得られるというのが最大のメリットと言えるでしょう。
小さな電力の大きな可能性
近年、注目度が高まっているエネルギーハーベスティングですが、実は古くから実用化されているものもあります。最も身近なのが電卓でしょう。ソーラーパネル付きの電卓は蛍光灯などの光があれば動きます。
発電量が小さいため、これまで活用できるケースは限られていましたが、現代は技術の進歩によって電気・電子機器等の省電力化が進んでいるため、さまざまな分野での活用が期待されています。
例えば、スマートフォンやタブレットに搭載できるようになれば、もうバッテリーもケーブルも必要ありません。人が歩く振動を電力に変換できれば、駅などの省エネルギーにつながります。過去にはJR東京駅で実証実験も行われました。また、災害で停電が起こっても、エネルギーハーベスティングの機能が備わっていれば安心でしょう。
大きな可能性を秘めた小さな電力に、引き続き注目です。