LED照明特集

国の省エネ推進施策とともに再注目される

フローで100%近く普及したLED照明は、すでに商戦を既設照明のリプレイス需要などへと移し、ストック分野での熾烈な競争を始めている。そうしたなか、我が国はこのほど、再生可能エネルギーを主力電源とするエネルギー施策を決め、これまで以上の省エネを推進することになった。省エネの代名詞といわれるLED照明は、国の省エネ推進施策とともに再注目され、その需要に弾みがつこうとしている。照明メーカー各社の営業戦略などから、LED照明の動向などを探ってみた。

【ベースロード電源としての再エネ】
日本の中長期的なエネルギー計画を方向付ける、「第5次エネルギー基本計画」が、このほど閣議決定された。これは、2030年、さらに2050年を見据えたエネルギー政策の基本方針となるもので、次の4つの目標を掲げている。
①安全の革新を図る
②資源自給率に加え、技術自給率とエネルギー選択の多様性を確保する
③「脱炭素化」への挑戦
④コストの抑制に加えて日本の産業競争力の強化につなげる
の4つ。また、今回示された30年までの電源構成比率は、再生可能エネルギーが22〜24%と前回比率が堅持され、ベースロード電源として明確な位置づけがなされたのは特筆すべき事柄でもある。
そのほか原子力発電が20〜22%、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料が56%といった構成比となっている。
再生可能エネルギーを前面に主力電源とし、原子力の依存度をできるかぎり低減するという方針の下、そのための低コスト化、電力を電力系統に流す時に発生する「系統制約」の克服、不安定な太陽光発電などの出力をカバーするための「調整力」の確保に取り組むことになる。
我が国のこうした動きは、1997年の京都会議で採択された京都議定書(COP3)に代わる地球温暖化対策の取り組みとして、2015年12月に発効したパリ協定(COP21)に起因する。我が国は中期目標として、30年度の温室効果ガスの排出を13年度の水準から26%削減することを目標として定め批准した。世界に示した削減数値目標は、日本の威信にかけても達成しなければならないもので、待ったなしの実行となる。
30年に実現を目指すエネルギーミックス水準においては、実質エネルギー効率を35%減とするため、18年6月に国会で成立した「改正省エネ法」や支援策を一体として実施することで、徹底した省エネを進めることになる。
各分野の技術革新を行うことで省エネを進める一方、脱炭素化に挑戦するため、水素や蓄電池などの技術開発も進める。また「分散型エネルギーシステム」の構築と、それによる地域開発を推進する。
何度もいうようにこれは、我が国が批准し、パリ協定で世界に示した温暖化ガス削減目標値を確実に達成するための、徹底した省エネ推進のあらわれともいえる。

【照明器具の現状】


日本照明工業会(道浦正治会長)の自主統計データによると、照明器具の出荷数に占める割合が実に96.9%(18年5月単月)と、政府目標の「フローで100%達成」の道筋が見えている。このように、主照明として広く社会に普及し完全に定着したといっても過言ではないLED照明である。
そうしたなか、我が国の強力な省エネ推進策がLED照明の新たな需要を喚起しそうである。というのも、住宅照明はエアコンに次いで家庭内の電力消費を占めているため、省エネの代名詞といわれるLED照明がこれまで以上に注目されるからである。主照明として広く社会に普及し、完全に定着したといっても過言ではないLED照明だが、ストック分野における普及・拡大を見せる端緒の年になるのではないか。
照明器具の推移を同工業会の自主統計データからみると、17年の照明器具類全体の出荷実績(暦年、表1参照)は数量で前年比103.8%(7129万4千台)、金額で103.2%(7496億5800万円)となり、自主統計を取り始めてから初めて出荷金額で7千億円を超えた15年以来、この数字を堅持している(グラフ1、2を参照)。


しかしその一方で、前年比を見ると、出荷数量、金額ともにプラスとなっているものの、グラフからわかるように13年から17年まで右肩下がりの漸減傾向を示している。前述したように、これはとりもなおさず、照明器具の出荷数に占める割合が実に96.9%と、限りなく100%に近付いている証左でもある。政府目標である「LED・有機EL照明の普及率を20年にフローで100%の達成」は予定より早く到達できそうな勢いでもあるが、言い換えれば、フローでの需要は頭打ちともいえる状況にある。
矢野経済研究所が発表した「照明市場に関する調査」でもその傾向が見て取れる。調査では、16年の一般照明用途の照明市場規模(メーカー出荷金額ベース)は、前年比2.9%減の1兆276億9400万円を見込む。照明市場では、11年の東日本大震災を契機とした省エネ意識の高まりを背景に、エネルギー効率に優れたLED照明の需要が急激に拡大し、11年および12年は二ケタの成長を遂げた。その後、14年および15年は微増と伸び率は鈍化しており、16年の同市場はランプ需要の大幅な減少により前年比2.9%減の見込み—という。また、17年の一般照明用途の照明市場規模(メーカー出荷金額ベース)は前年比2・7%減の1兆円を見込んでいる——という。

【各社の取り組み】

生活を彩るLED照明(写真はLIVING&DESIGN会場)

照明器具として社会に定着したと先ほど述べたが、フロー市場におけるLED照明は厳しい環境を見せており、むしろ、普及期から成熟期に入ったLED照明といえそうだ。したがって、ストック市場へのシフトは必然的といわざるを得ない。既存の施設や工場・倉庫用途向けといったストック分野における普及率は現状、3割にも達しておらず、省エネ推進のための早急な普及施策が待たれるところ。加えて、政府の省エネ推進施策も後押ししている。照明関連メーカーがシフトする理由がここにもありそうだ。
さらには、発売開始から約10年が経過したLED照明。昨今の技術開発によって、発光効率も格段にアップしているほか、光の質も大きく改善されており、LEDからLEDの買い替え需要、セカンドリプレイスも発生しているという。
省エネの優等生ともいえるLED照明は、我が国が世界に示した温室効果ガス削減目標数値を達成するための徹底した省エネ推進策によって、普及・拡大に一層弾みがつく状況となっている。各メーカーはこうした流れに沿って、既存の施設や工場・倉庫向け照明に軸足を置き、ランプ効率や光の質の向上などを一層図るための様々な技術開発を行い、新製品の投入や製品のラインアップ拡充を進めている。半面、価格の低下が急速に始まっており、今後、ビジネスとしての正念場を迎えているともいえる。そのため各社は製品開発とともに、今後に向けた営業戦略で生き残りをかけている。各社の下期に向けての戦略を見ると。
パナソニック エコソリューションズ社は、市場分野別・用途別にLED照明器具の品揃えと普及を継続的に進める。環境認識を「工・販・製」で共有し、業界一体となってストック市場における幅広い提案型の営業活動を一層強化する。市場分野別、用途別に次のようなLED照明の新商品を投入し品揃えを拡充する。
施設照明分野=一体型LEDベースライト「iDシリーズ」40形10000lmタイプ/電源別置型・電池内蔵型「LED非常用照明器具」▼屋外照明分野=LED高天井用照明器具:工場・倉庫環境別対応器具▼店舗照明分野=高効率「LEDダウンライト ワンコアタイプ」住宅照明分野=スピーカー付LEDダウンライト/「LAMP DESIGN(ランプデザイン)」シリーズ

東芝ライテックでは、商品としてLED高天井器具「角形シリーズ」に、「軽量タイプ」10機種を追加し発売。最大約56%の大幅な軽量化を実現した。LED高天井器具は、その重量から、改修において建築物の天井への負荷に配慮が求められる場合があるが、新商品は大幅な軽量化により多くの建築物の改修に対応している。
先ごろ行われた「JECA FAIR2018」製品コンクールで、環境大臣賞を受賞するなど、高い評価を受けており、順調に売上げを伸ばしている。今後、リニューアルやストック需要を掘り起こす切り口にしていく考え。
三菱電機照明の下期事業展開では、LED器具を「省エネ・環境負荷低減」の基幹製品として「施設用照明事業の拡大」「既存光源事業からの転換」の2つを柱に進める。
販売戦略では、①リニューアル提案・刈取りの推進 ②「電材店様との連携強化拡大」「電材店様の重要顧客である電気工事店様の三菱ファン化の推進」のために新商品の出前説明会、工場視察会などを継続実施 ③ショウルーム視察会、研修会を継続展開する。
新商品開発では、注力分野の「ベース系商材の競争力強化」「店舗向照明器具のラインアップ強化」「LED非常灯器具の開発」を継続。また建築化照明等の「周辺商材の拡充」にも取り組む。

岩崎電気は、HIDランプが前年の91%、水銀ランプが前年の61%と想定内で落ち込んでいる。これらに代わるLED光源は、前年並みの102%であった。LEDはランプだけでなく、器具交換も顕著となっている。
商品的には、昨年から市場投入した「トリカエル」が、今まで同社が販売している公園灯と比較して動きが非常に好感触。新商品としては、100W水銀ランプのLEDへの置き換えを秋に計画しているはか、LED高天井照明のリニューアル品として水銀の400Wとメタルハライドの400Wの投入を検討。

NECライティングでは、年々BtoBの販売ルート割合が増えている。目標として、半々くらいに持っていく考え。新商品については、昨秋発売したLEDシーリングライト「快適あかりシーリング」の機能強化を視野に入れている。「Nuシリーズ」については、非常灯内蔵タイプを、第3四半期を目途に発売予定である。また、防爆形LED照明器具は投光器タイプの発売を予定している。さらに水銀ランプ400W代替のLED高天井照明器具を投入予定となっている。

大光電機は、18年度通期売上高目標を415億円とした。住宅分野はあまり心配しないものの、新設住宅着工戸数の減少を受けるので、店舗関連をもう一度見直す考え。
商品的には、現在最も注力しているのが屋外照明の「ZERO」。関連して、8月末に沖縄・那覇市にショールーム「ライティングコア沖縄」を核とした拠点を設置。当初は「ZERO」のみの拡販に重点を置く。
この3年間は売上げが横ばい状態で、筋肉質経営と商品開発と研究開発は不可欠。責任者のレベルアップと適材適所な担当者で乗り切る方針。

多彩な商品で需要を喚起(写真は大光電機展示会場)

コイズミ照明は9月以降の下半期について、施設向けに期待する。オフィスビルは緑橋のR&Dセンター(大阪)での実践を提案していく考え。
戦略的には、大阪、東京の2カ所で「新製品総合内覧会」を開催。新たな価値を創出できる新製品を多数展示する。併せて、同社独自の提案として、「R&Dセンター」、LED照明提案型施設「KLOS大阪」をプロユーザー向けに活用する。
下半期の注力する商品では、制御関係、なかでもHEMSに対応するECHONETLite規格対応「スマートアダプタ」の普及拡大をめざす。

遠藤照明は、照明空間マネジメントシステム「Smart LEDZ(スマートレッズ)」など高付加価値を生み出す照明器具・システムに引き続き注力し、機能のさらなる向上と関連製品の拡充を図る予定。
下半期にかけて注力する製品としては、「ABITAGE(アビテージ)」。シャンデリアなどの意匠照明867点に加え、同社の強みである家具292点を掲載。これらは、来年以降の売上げに寄与させる計画。

ウシオライティングでは、市場のパラダイムシフトが益々加速し、消費者のニーズは「モノ(製品)」を買うことから、様々な「コト」の体験に価値を見いだす傾向が強まっている認識の下、次のような展開を目指す。
まず、この「流れ」をキャッチして、「USHIO」「MAXRAY」「CHRISTIE」の3ブランドを軸として、それぞれの強みとシナジーを活かし、事業の強化を目指す。「コト」をいかに高付加価値化するか、真摯に考え、プランニングし、ハードからソフト、サービスまでを一括提案できる「プロフェッショナル集団」として、エンターテインメントビジネスを深耕させる方針だ。

以上のように各社は下期以降、ストック市場に一層軸足を移した営業展開する姿勢が見えている。同市場に対しては「幅広い提案型の営業活動を一層強化し、きめ細かい展開」(パナソニックES社)をするほか、「施設用照明事業の拡大や既存光源事業からの転換」(三菱電機照明)を図るという。要は、「ストック需要を掘り起こす切り口を模索」(東芝ライテック)しているようだ。
専業メーカーに至っては、商品の拡充と経営資源の見直しという2本柱の戦略を見せている。
水銀ランプの落ち込みは想定内として「LED高天井照明器具の投入」(NECライティング)「昨年から市場投入した新商品の公園灯に注力」(岩崎電気)する。また、自社のウイークポイントを強化するため「店舗関連の見直しや、経営体質の改善」(大光電機)を引き続き行う。あるいは、「内覧会で新製品をPRするとともに、持てる施設の活用」(コイズミ照明)を行うという。もちろん「商品そのものの付加活アップや機能向上」(遠藤照明)は欠かせない。照明市場の変化をつかみ「3つのブランド(経営資源)でシナジー効果を狙う」(ウシオライティング)という。

【今後の展開】


LED照明は社会の認知度アップに伴い急速に普及拡大を続けているのは前述の通り。もち論、省エネ、温暖化ガス削減という観点から省エネ機器の優等生として、その支持は絶対的なものがあるのも拡大理由の一つ。加えて、メーカー各社は熾烈な販売競争を勝ち抜くため、ランプ効率(lm/W)や光の質の向上など様々な技術開発を行い新製品の投入や製品のラインアップ充実を図るなどの技術革新も普及・拡大の大きな推進力になっている。
しかしここ数年、出荷数量の前年比は漸減傾向を示しており、これに伴って出荷金額も同様の傾向を見せている。ここにきてフロー市場の飽和状態が顕著に表れつつある。光源の長寿命という特長もマイナスに影響していると思われる。そのため各社はここ数年、主戦場をストック市場に移し、新たな展開を見せているが、ストック市場におけるLED照明の普及は遅々として進んでいない。その普及率は3割を切るというのは先ほど述べたとおりで、既存施設照明はまだ、9・5億台あると推定されている。
現在、既存施設照明の電力使用量は約1260億kWhと試算されている。10年以上前には1649億kWhあったが、LED照明の登場によって大幅な省エネが実現している。さらに、照明の省エネ化が伸展すれば30年には863億kWhと、実に48%減の省エネが達成できる。これがひいては世界に示した我が国の温暖化ガス削減に貢献できるというのは論を待たない。
その反面、昨今の出荷額減少という状況からして大きく利益を生む絶対的に魅力ある商材とは言い難い。しかし、ストック市場での圧倒的な需要は見逃せない。そのため各社は新たな営業戦略を展開し、高効率照明器具や高付加価値商品、差別化商品などを市場に投入してストック市場での生き残りをかけている。その背景には地球温暖化防止という高邁なものがあることも事実。価格競争という後ろ向きの競争ではなく、温暖化防止という大きな視点の上に立った技術開発や商品開発でストック市場のリプレイスを進めてもらいたいものである。