【トップインタビュー】 電線工業会の小林敬一・会長(古河電工社長)

 電線工業会の小林敬一・会長(古河電工社長)

取引適正化 輸送費高の理解を需要家に
年度内に自主行動計画を取りまとめ


電線工業会の小林敬一・会長(古河電工社長)は、共同取材で「19年度の電線総出荷は、建設電販需要の好調と自動車の電動化で5年ぶりに70万㌧を上回りそうな見通し」とした。GAFAなどが光海底ケーブルを敷設する情勢下、「需要の変化を追いかけ、それに対応した電線工業会を目指したい」とした上で、重点活動テーマは「4項目を中心にしっかりと推し進める。そのうち中堅・中小会員への支援策は、昨年4月に公表した品質保証体制に向けたガイドラインの説明会を東京と大阪で開催した。また、取引適正化の取組は、会員の取引適正化活動フォローアップでの要望に基づき、昨年は電線需要家団体に電線の輸送費高騰などに関する課題の理解と協力を求める要請を発信。同時にその要請(書面)を各社の業務に活用して頂いている。国と自動車業界等では、自主行動計画を策定しており、そのフォローアップを進めている。電線業界でも、こうした行動計画を、年度内を目処にまとめる予定でいる」と述べた。


 —20年の抱負は?
「当会が掲げる重点活動テーマ4項目(①環境問題への対応、②中堅中小企業の経営基盤強化支援、③グローバル化への対応、④商慣習の改善)を中心に、しっかりと事業を推し進める。同時に社会に重要なインフラを提供する当会の一層の発展へ尽力したい」

 —19年度の電線需要見通しは?
「東京五輪用途の電線需要の刈り取り、首都圏の大型再開発需要に加えて、公立学校のエアコン設置にともなう構内配電の増強に向けた電線需要が予想以上に強かった。そのため建設電販向け需要が好調だった。自動車は、産業自体が厳しいものの、電動化が進んで増加し、出荷量で前年度比10%程度上回った。この2部門が全体を押し上げて、19年度の電線総出荷は、5年ぶりに70万㌧を上回りそうな情勢になってきた。
一方、中国経済の減速や米中貿易摩擦の影響は、アジアや欧州の経済に響き、電気機械や電子機器向け電線が大きく落ち込んでいる。そのさなか、米国が対中制裁緩和へ動き出し、早急に米中貿易が正常化することを願う」

電力は再エネ、NTTの配電網整備、情通は5G、CASEに期待

 —20年度の電線需要見通しは?
「五輪関連需要が継続し、5G絡みの需要や自然災害の復興需要などインフラ系の電線ケーブル需要は、底堅い見通し。また、五輪等にともなうインバウンド関連の需要は期待できるものの、住宅投資などは厳しさが続くだろう。
政府の様々な新経済対策に期待している。電力関連事業では、風力発電など再生可能エネルギーの連携線整備や経年劣化設備の更新、電線地中化による電力ケーブルなどの需要拡大が望まれる。また、NTTグループは再エネの地産地消を目指し、20年度から6年間で総額6千億円を投じ、自前の送配電網を整備する計画を打ち出された。(全国約7千300カ所の)電話局と地域の公共施設や工場をつなぎ、再生可能エネルギーを供給する方針。いずれにしても電力市場の活性化は、電線業界にプラスになる。さらに5GやCASEといった情通インフラは、大量の電力が求められ、安全で安定した電力供給の実現のため電線ケーブルは一層重要になる」

 —自然災害でも対応する電線の開発については?
「19年秋の台風は、猛烈な風雨で関東、東北、中部地域に多大な被害を及ぼした。電線業界では、風圧荷重を低減させる低風圧電線、樹木との接触に適した耐摩耗電線などを開発し、電力用規格に反映するなど、かねてから電線の改良を進めてきた。電線の地中化も災害対策としてさらに進むだろう」

 —電線の地中化については?
「国交省の無電柱化3カ年計画(17〜20年、計1千400㎞)が進められている。例えば、バス通りは道路の両側、裏道は片側に沿線・敷設されるとすると電線銅量で換算すると1万㌧になると推定される。地中化は、今後も景観地域や地方への波及が継続するだろう」

 —光ファイバ市場については?
「19年度の光ファイバ需要は、国内は公衆通信部門が堅調で、前年度比横バイとみている。5Gサービスの全国への拡大、IoTの進展による需要増に期待したい。海外市場については、中国勢との競争激化で厳しい情勢にある。欧米は、データセンター投資やFTTH、5Gサービスなど潜在需要が高く、先行き期待できる」

 —GAFAなどの登場で、通信キャリア以外が、光海底ケーブルを敷設するなど需要環境は変化しているが?
「需要の変化を追いかけ、それに対応した電線工業会を目指していきたい」

—日系電線メーカーが海外で成長できる市場については?
「大手電線メーカーが競争力を備え、得意な(長尺、直流を含む)超高圧ケーブル、光ファイバ・ケーブルや自動車用ワイヤーハーネス(事業)は、市場動向や顧客ニーズに合わせた国内生産やグローバル生産などの様々な展開で、今後も期待が持てる。中堅・中小会員が得意な機器などの特殊電線は、従来から日系の電子・電気、ロボットや電装品メーカー(ユーザー)と密接な関係を保ちながら、種々のニーズに適応し成長してきた。そうした情勢下、日系ユーザーのポジジョンや市場の変化に応じ、柔軟に即応されている。5G関連機器やCASEの進展による電装品市場の拡大は、中小会員の需要伸張に大きく寄与すると考える」

中堅・中小会員をガイドライン説明会とIoT・AI見学会で支援

 —重点施策への取組は?
「そのうち中堅・中小会員への支援策については、昨年4月に公表した品質保証体制に向けたガイドラインを有効活用して頂くために、東京と大阪で説明会を開催した。出席者の92%が説明会の内容を、社内展開できる程度に理解できた、とした。さらに同96%が自社で品質保証体制を改善中または改善を予定としている。また、昨年10月には人手不足対策、コスト競争力アップに向けたIoT、AI活用例を実際の製造現場でふれて貰うため、古河電工の日光事業所銅箔事業部門で見学・勉強会を実施し、中堅・中小会員約30人が参加した。市場が求める情報を共有化し、開発を支援する方策を進め、中堅・中小会員の技術の底上げを図りたい」

 —電線取引適正化への取組は?
「会員の取引適正化活動フォローアップでの要望に基づき、昨年は電線需要家団体に電線の輸送費高騰などに関する課題の理解と協力を求める要請を発信した。同時にその要請(書面)を各社の業務に活用して頂いている。また、経産省、国交省、東京都から、東京五輪開催中の物流削減の協力依頼を受けたが、夜間、早期納入へのシフトや五輪大会前後の物流の集中によって輸送コストが増加すると考えられる。
我々が、そうしたしわ寄せを被ることが無いように、需要家への啓蒙を要望した。
また、国と自動車業界等では、適正取引の推進と生産性・付加価値の向上に向けた自主行動計画を策定しており、そのフォローアップを進めている。電線業界でも、こうした行動計画を年度内を目処にまとめる予定でいる」

 —環境問題への対応は、どうか?
「環境と経済性を配慮した『最適導体サイズ設計・ECSO(エクソ)』の普及を国内外で進めており、昨年9月16日付で、この国際規格(IEC62125)が発行された。電線関係では、日本提案の国際規格は過去に例が無く非常に画期的な成果と考える。また、昨年に次回の建築設備設計基準の改訂に盛り込まれるように国交省に意見要望を提出した」
『電線の日』にスペシャルコンテンツをサイト公開、幅広い年齢層に周知

 —グローバル化対応は、どうか?
「今、掲げたECSOなどの国際規格・標準化の推進活動や、会員の海外現地法人の電線出荷量などを取りまとめている。日本の電線製造業は世界40か国以上に進出してグローバルで事業を展開し、同海外現地法人の電線出荷量は国内出荷量と肩を並べるようになり、19年度の実績から品種別統計も加え発表することにした。当会会員は、グローバルでニーズを補足し、海外事業を推進していることを発信して国際舞台での影響力向上を図りたい」

 —電線の日への取組は、どうか?
「2年目を迎えた19年の電線の日(11月18日)に、電線の周知拡大に向けて、スペシャルコンテンツ『電線学園』をディスカバリー電線サイトに公開した。これは、CVやLAN、同軸ケーブルや巻線、光ファイバ、耐熱電線など身近にある約10種類の電線を紹介。対象層を小学校高学年以上とし、平易な文章で、気軽な読み物として、電線と電線にまつわるストーリーを楽しめる内容になっている。会員各社のHPで事前アナウンスをして頂き、アクセス数が大幅にアップした。また、科学技術館などの協力も得ており、周知効果が上がるだろう」

電線新聞 4186号掲載