LED誘導灯・非常灯特集

誘導灯、非常灯の分野においても、LED化の進展、機能およびラインアップの充実ぶりが目を引く。きっかけは、1965年から1975年にかけて頻発したホテルや旅館、デパートでの多くの犠牲者をともなった火災事故。だけに、人命との関わりの深さからも、看過できない商材のひとつといえるだろう。

いうまでもなく、照明器具のLED化率は圧倒的である。日本照明工業会の統計でみても、ここにきて数量、金額ともに前年同期を下回っているとはいうものの、LED器具の出荷率はいずれも100%に近い。
昨年11月におけるLED器具の出荷数量は、住宅用が316万1千台(前年同月比90.8%)、金額にして152億8400万円(同87.5%)、LED化率99.5%。
非住宅用(屋内)が281万9千台(同92.6%)、金額で491億3800万円(同94.7%)、LED化率99.0%となっている。
ちなみに、従来光源器具を含めた照明器具全体では、出荷数量が626万4千台(前年同月比90.4%)、金額が732億5900万円(同93.5%)で、LED化率99.2%である。
100%に届かないのは、従来光源器具が金額にして、まだ6億5400万円(前年同期比48.4%)あるため。

LED器具全体のなかで誘導灯、非常灯が占める割合はいくらなのか具体的な数値については把握できないが、ほかの照明器具同様、かなりの普及をみていることはたしかだろう。
関連メーカー各社がLEDへの切り替えに注力していることからみても、それは明らかだ。
当然、今後においても、LED化の流れは不変であることに間違いはない。
関連メーカー各社がこぞって蛍光灯および蛍光灯器具の生産を中止していることもあるが、環境保全の観点から、省エネ、CO2削減のため、LED化の促進を望む声が強いためだ。
昨年5月には、東京都が東京メイヤーズ・サミットのなかで、大都市の責務として2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現する旨の宣言をしたことは、記憶に新しいところである。
そのなかで、東京都が戦略として掲げた視点は次の3つ。
すなわち、①気候変動を食い止める「緩和策」と、すでに起こり始めている影響に備える「適応策」を総合的に展開。
②資源循環分野を本格的に気候変動対策に位置づけ、都外のCO2削減にも貢献。
③省エネ・再エネの拡大策に加え、プラスチックなどの資源循環分野や自動車環境対策など、あらゆる分野への取り組みの強化。
この観点から、東京都では、さまざまな分野に焦点を当て、種々の提案を行っている。たとえば、10年前と今日との家電製品を比較したうえでの買い替え提案など。
東京都の資料によれば、2009年当時の1世帯たりの電気使用量は年間で約4600kWh。そのうち、照明器具は全体の13.4%を占めていた。家電品では、電気冷蔵庫が14.2%ともっとも高く、テレビ8.9%、エアコン7.4%があとに続く。
10年後の2019年現在では、買い替えにより、冷蔵庫は09年比で約47%(年間電力使用量308kWh減)、LED照明器具(LED)は白熱電球と比較して約85%(同526kWh)の省エネ化が可能という。
ちなみに、冷蔵庫、照明器具、テレビ、エアコンなどの家電製品を各家庭が一斉に最新のものに買い替えた場合、東京都だけでも約307万㌧のCO2削減になると、試算している。
話を誘導灯に戻せば、省エネ効果の点では、誘導灯も同様で、LEDへの取り替えにより、大きな効果が期待できる。
たとえば、延べ床面積が8千㎡規模の工場の場合、誘導灯をLED器具に取り替えるだけで年間の節電電力は約1.5kW、金額にして約17万円の効果が期待できるといった試算もある。
こういった数値からみても、蛍光灯を使用している従来形の誘導灯(もしくは非常灯)はいずれ使えなくなることを考えれば、早めの対策が得策といえよう。

参考のため、誘導灯の足跡をおさらいしておきたい。
その歴史は、人命尊重の立場から、当時における最新の技術を駆使してさまざまな改良が加えられ、今日に至っているといっても、過言ではないだろう。
そのなかで、目立った動きのひとつに、1982年に誘導灯の表示面をピクトグラフ(絵文字)化したことがあげられる。
それまでは表示面に文字を書いたものだけだったが、これでは、火災時に煙が発生すると、文字を確認できないことが、その後の実験結果で判明したため、改良が加えられた。
余談ながら、海外の誘導灯は、ピクトグラフ化していないものも多い。
「EXIT」(アメリカ)、「SORTIE」(フランス)、「SALIDA」(スペイン)、「SORTIE-EXIT」(カナダ)、「USCITA DI SICUREZZA」(イタリア)など、表示面はすべて文字のみである。
国内ではその後も改良が進み、器具の中形および大形の出現。これにより、誘導灯の見え方が一段と改善されるが、その一方で、大形の誘導灯は建築家やデザイナーから建物との調和がとれないなどの指摘がでた。その結果、1994年に誕生したのが、高輝度誘導灯である。
高輝度という言葉の連想から、LED器具と混同する向きも一部にあるようだが、まったくの別物である。
それまでの誘導灯とは異なり、数倍も輝度が高いことが、名前の由来である。
小型で高光度な光源の開発により実現できたもので、1987年、東京駅八重洲地下街で行われた実験でも、そのことが実証された。
こうした経緯から、1999年、消防庁では高輝度誘導灯を従来の3:1誘導灯の代替えとして認める法改正を行った。
繰り返しになるが、誘導灯のあゆみを辿るうえで、忘れてならないのは、やはり、人身事故との関係である。
1965年~1975年にかけてホテル・旅館やデパートでの火災が相次ぐ。
なかでも、1972年の大阪・千日前デパート、1973年の熊本・大洋デパートなどは、多数の死傷者を出したことから、その惨状がいまも生々しく記憶に残る。
適切な避難誘導を行わなかったことが被害を大きくした原因といわれるが、これをきっかけにして消防法令の改正が行われ、引いては、誘導灯のさらなる進化をうながすことにもなった。
ちなみに、日本照明工業会は、総務大臣登録の認定機関として、2004年12月から消防法令にもとづく誘導灯の認定業務を実施している。
認定を受けた誘導灯は、適合している旨の表示を付し、これがあれば、消防検査において、技術基準に適合しているとみなしている。
認定器具には、次のようなものがある。
誘導灯器具(避難口)、階段通路誘導灯、客席誘導灯、誘導灯器具内蔵用電源装置、誘導灯器具表示板、誘導灯用信号装置、点滅形避難口誘導灯点滅装置、誘導音装置など
ところで、この特集のなかでも、メーカー各社から最新の器具が紹介されているが、そのなかで目を引くのは、LED化の進展とラインアップの充実ぶりである。
それらを電気工事など関連業界に提案するのが電材業者ならびにメーカー各社にとっての課題となるが、古いビルや施設では、まだまだエネルギー効率が悪く、視認性に劣るものがあるのも散見されるだけに、電材業界としても、前向きな姿勢で臨みたいところだ。

LED市場をめぐる動向

LED光源(灯体)については、対前年比188.2%(1億1450万個)と大幅に伸長した。
「既存光源からLED光源へのパラダイムシフト」が終焉を迎えつつあるなか、「Connected Industries」という、さらに大きなパラダイムシフトに対応すべく、次の10年に向けた照明成長戦略『Lighting Vision 2030』を策定した。
“Connected Smart Lighting&Human Centric Lighting”の普及と2030年ストック市場におけるSSL化率100%のゼロ目標を掲げた。
SSL化率100%の計画を立てるうえで、基本となる既設照明器具台数(ストック台数)および、そのSSL化率を調査し、2017年度末時点でのストック台数を17億台、SSL化率約34%と推定した。
また、地球温暖化対策として、2030年度までに2013年度比で26%の温暖化ガスを削減するという政府目標の達成に向けて、資源エネルギー庁の新トップランナー制度や環境省のグリーン購入法改正など、関係省庁と強調して、活動を推進した。
(日本照明工業会2018年度事業報告より)