市場は順調に拡大
4K・8K実用放送開始から早や1年以上が経過した受信システム機器市場。視聴可能機器台数の累計も300万台を突破し順調な伸びをみせているが、もっとも期待する今夏の東京オリンピック・パラリンピックが世界的なコロナウイルス感染の影響で開催中止の危機にさらされている。そういった不透明な要素もあるなか、電子情報技術産業協会(JEITA)や放送サービス高度化推進協会(A―PAB)では、さらなる普及のための受信環境の整備に取り組んでいる。
JEITAの1月の薄型テレビの国内出荷実績は35万台で、そのうち4K対応テレビは18万9千台となった。ちなみに、薄型テレビ全体で4K対応テレビが占める割合は、54.0%とこちらも8カ月連続の5割超えとなっている。(表1)
また、新4K・8K衛星放送各機器の動向をみると、新4K・8K衛星放送対応テレビは出荷実績が17万台で前年同月比225.7%、売上金額は241億円で同232.5%となり、4K対応テレビ全体で新4K・8K衛星放送対応テレビが占める割合は89.9%とほぼ9割の数値に。昨年1年間の新4K・8K衛星放送対応チューナーの出荷台数は5万7千台、新4K・8K衛星放送対応レコーダーの発売開始からの台数の累計は34万台となった。(表2)
受信システム機器の2019年度上期国内出荷実績をみると、テレビ受信アンテナが前年同期比92.3%の44万4千本、能動機器が同103.0%の95万8千台、受動機器は同99.8%の464万6千台となった。(表3)
また、A―PABの新4K・8K衛星放送視聴可能機器台数1月までの累計値をみると、JEITA発表の出荷台数では新チューナー内蔵テレビが211万4千台、外付け新チューナーが23万7千台、新チューナー内蔵録画機が34万台、これに日本ケーブルテレビ連盟ヒアリングによる新チューナー内蔵STBの設置台数68万5千台を加えてトータルで337万6千台となっている。(表4)
視聴可能機器台数 300万台を突破
A―PABは1月、新4K・8K衛星放送視聴可能機器台数公表記者発表会を開催。席上、12月末までに視聴可能機器が313万台となったことを公表した。
福田俊男理事長は「一昨年12月の放送開始から半年くらいはどちらかといえば低空飛行でなかなか展望が開けなかったという状況だったが、6月になり主要メーカーの受信機が出そろったことで少しずつ右肩上がりになってきた。普及は決してホップ、ステップ、ジャンプで来たわけではないが、300万という数字はひとつの通過点ではあるものの数字としての重みはあり、ようやくここまでたどり着いたなと思っている」とこれまでを振り返り、「とはいえ、BSの受信可能世帯からみると普及率はまだ1ケタなので早く2ケタ台に乗せたい。無理なく普及と言いながらも期待値はできるだけ早くということで相当なジレンマがあるが、半年後のオリンピック・パラリンピックを目指して普及に努めたい。オリンピック後は、早く焦らず普及をはかり、定着したメディアになるべく努力したい」と意気込みを述べた。
木村政孝理事は、視聴可能機器が大幅に伸びたことについて「昨年の単月データをみると1~5月が月平均12万台で足踏み状態だったのが6~10月は月平均22万台ペースに急増した。11月の52万台は4Kレコーダーの一昨年11月からの累計台数が加算されたためで実質的には30万台程度とみており、12月に42万台と伸びたことで一気に300万台超えとなった」と解説。今後については「短期的にはオリンピック・パラリンピックまでにいかに頑張るかということであり、まずは早く500万台を普及の一里塚として達成したい。月平均27万台で実現可能となるが、屋台骨である新チューナー内蔵テレビをいかに普及させるかにかかっている。昨年も7月~12月はちょうど月平均20万台だったのでできなくはないと確信する」との見通しを示した。
このほか、コールセンターの相談状況については、テレビの購入や受信機器、録画機器への問い合わせが多い一方、「4K画面が暗く感じる」との声は減少傾向にあると報告された。
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各メーカーでは現在、新4K衛星放送対応テレビチューナーを発売するなど、自社製品の売り込みと市場活性化のためにキメの細かいアピールを重ねている。コロナウイルス感染の影響がどこまで及ぶのか見通せない不安もあるが、「工・製・販」の緊密な連携による提案活動で需要の刈り取りを進める以外にはない。
JEITAの 新4K・8K衛星 放送受信環境に 向けた取り組み
JEITAの受信システム事業委員会では、放送受信に関わる諸課題の解決や良好な受信システムの普及に向けた活動を行っている。
□新4K・8K衛星放送を受信するためには
2018年12月1日より新4K・8K衛星放送が開始され1年が経過した。新4K・8K衛星放送では現在、BS4K放送10チャンネル、110度CS4K放送8チャンネル、BS8K放送1チャンネルの計19チャンネルを視聴できる。
従来のBS・110度CSアンテナは、右旋放送のみに対応している。そのため、BS右旋で放送される4K放送は受信できるが、BS左旋・110度CS左旋で放送される4K・8K放送は受信できない。すべての新4K・8K衛星放送を視聴するためには、右左旋両方に対応したアンテナへの交換が必要となる。
さらに、宅内伝送に使用されている分配器、分波器、ブースタ等もBS・110度CS右左旋放送受信帯域(1032~3224MHz)に対応した機器への交換が必要となる。
また、新4K・8K衛星放送左旋の宅内伝送周波数帯(2224~3224MHz)はすでに移動通信、ISMバンド、各種レーダー等の他の無線サービスや電子レンジでも使用されており、これらの他の無線サービスと共用するには相互の電波干渉が懸念されることから無線設備規則が一部改正されて電波漏洩に関する規定が追加され、2018年4月1日に施行された。
□受信システム事業委員会の活動
受信システム事業委員会では、新4K・8K衛星放送のインフラ整備を鑑み、新4K・8K衛星放送受信に必要な衛星放送受信アンテナ、ブースタ、分配器、混合器・分波器、直列ユニット、壁面端子などの受信システム機器を安心して使用できるよう電気的性能、構造、電波漏洩に関する性能に優れた機器を証明する「スーパーハイビジョン受信マーク(SHマーク)」登録制度を整備し対象機器の審査・登録を行っている。2019年12月現在、約700機種の製品が登録している。
しかし、アンテナからテレビまでの間には同軸ケーブル、コネクタ、テレビプラグ、テレビ接続ケーブルなどSHマーク対象機器以外の機器も使用されている。SHマーク機器を使用して受信システムを構築したとしても、これら他の機器のシールド性能が悪ければ電波が漏洩したり飛び込んだりして電波干渉を起こす。
そこで、受信システム事業委員会では2019年2月、電波漏洩に関する性能に限定し遮へい性能を満たした機器を証明する、「ハイシールドマーク(HSマーク)」登録制度を整備した。2019年12月現在、約1150機種の製品が登録している。
□新4K・8K衛星放送受信の普及
新4K・8K衛星放送開始当初は、テレビにチューナーを内蔵している機種はほとんどなく、外付チューナーによる視聴が大半だった。その後、各メーカーのテレビやレコーダーには4Kチューナーや8Kチューナーを搭載した機種が次々と発売され、新4K・8K衛星放送を視聴できる環境が整いつつある。しかしながら、テレビを新しくするだけで放送を受信するシステムが対応していなければ、新4K・8K衛星放送を視聴することができない。
衛星放送を受信するシステムは時代とともに変化し、大きく分けて2150MHzシステム、2602MHzシステム、3224MHzシステムの3つのシステムが存在し、そのシステムによって新4K・8K衛星放送の視聴できる範囲が異なる。
2150MHzシステムであればそのままの設備でBS右旋にて放送されているNHKおよび民放5社の4K放送は視聴可能、2602MHzシステムは衛星アンテナと一部の機器を交換すればBS右旋とBS左旋で放送されているチャンネルは視聴可能、3224MHzシステムであればすべての新4K・8K衛星放送が視聴可能となっている。
受信システム事業委員会では、このように複雑な受信システムの理解促進のためにリーフレットやハンドブックを作成した。
これからも、良好な受信環境の向上と新4K・8K衛星放送の普及に貢献したい。