100万$の夜景ってナンボ?
神戸の夜景
どこからかジングルベルが聞こえてくると、街は色とりどりのイルミネーションに彩られる。子どもたちや若いカップルは、なんとなくウキウキソワソワときめいてしまう。そんな季節だ。でも、特にウキウキもソワソワもしないという人は、街の喧噪を離れて、山に登ってみよう。夜のドライブで山頂に降り立てば、眼下に広がるのは100万ドルの夜景。きっとあなたも心ときめくはず。ただし、そこにもウキウキカップルはいるかもしれないけれど。
秋から冬にかけては夜景鑑賞に最適なシーズンだ。澄んだ大気が光をいっそう輝かせてくれる。しかし、なぜ100万ドルなのだろう。まあ確かに100万円の夜景だと日本人には生々しいが、ドルだと、宝石箱をひっくり返したような美しいイメージが思い浮かぶから不思議だ。というわけで調べてみると、「100万ドルの夜景」とは元々、神戸の夜景のことをいったらしい。諸説あるが、話は70年前にさかのぼる。
日本が高度経済成長期にあった1950年代、電気のあかりも急速に普及し、まばゆい夜景が各地に現れ始めた。一方、海外には美しいものや価値のあるものを「100万ドルの――」と呼ぶ習慣があり、その影響を受けて、神戸の六甲山から望む夜景が日本で最初に「100万ドルの夜景」と称されたのだとか。なぜ神戸が最初なのかはわからない。六甲ケーブルを運行する六甲摩耶鉄道(現・六甲山観光)が宣伝文句として用いたために広まったとされる説が有力のようだが、1953(昭和28)年、神戸の夜景を鑑賞した関西電力の当時の副社長が「百万弗の夜景」というエッセーを広報誌に寄稿しているそうで、これが最初ともいわれている。そして、さすがは電力会社の副社長で、本当に100万ドルかどうかを検証したそうだ。六甲山から見渡す電灯を神戸、芦屋、尼崎、大阪の4市として計算したところ約500万灯あり、その1カ月当たりの電気料金を当時のドルに換算すると100万ドル強だったのだ。円なら生々しく4億2900万円だ。ちなみに、今は1千万ドルに値上がりしているらしい。
日本三大夜景と世界三大夜景
北海道函館市の「函館山」の夜景
日本三大祭や世界三大珍味のように、三大という称号が夜景にもある。いつ誰がどのようにして決めたのか定かではないらしいが、一般的に知られている「日本三大夜景」は北から、北海道函館市の「函館山」、兵庫県神戸市の「摩耶山掬星台」、長崎県長崎市の「稲佐山」だ。
また、「日本新三大夜景都市」というのもある。こちらは「一般社団法人夜景観光コンベンション・ビューロー」の主催により、全国約5500人の「夜景観賞士」が3年ごとに選出。最新の2018(平成30)年は、第3位が福岡県北九州市、第2位が北海道札幌市、栄えある第1位が長崎県長崎市に決定している。
さらには、「新日本三大夜景」というのもあるのだ。こちらは、夜景愛好家が集う「夜景倶楽部」が立ち上げた非営利団体「新日本三大夜景・夜景100選事務局」が2003(平成15)年4月に発表したもの。北から、山梨県山梨市の「笛吹川フルーツ公園」、奈良県奈良市の「若草山」、福岡県北九州市の「皿倉山」が選ばれている。
では、「世界三大夜景」はどこかというと、こちらもいろいろあるようだがポピュラーなのは、香港の「ビクトリアピーク」、イタリアはナポリの「ポジリポの丘」そして、北海道の「函館山」である。日本の都市が世界の三本の指に入っているのは、なんだか誇らしい。
光の彫刻「神戸ルミナリエ」
神戸ルミナリエ
街に戻ってみよう。最近は季節を問わずイルミネーションの演出やライトアップが各地で行われていて、どこも人気だが、関西で有名なのは、やはり「神戸ルミナリエ」ではないだろうか。阪神・淡路大震災の犠牲者の鎮魂と都市復興の願いを込めて、震災が起きた1995(平成7)年の12月に神戸市の旧居留地で開催された。当初は1回限りの予定だったそうだが、震災の記憶を語り継ぐとともに、被災した人々と街を応援するべく毎年恒例になり、今では神戸の冬の風物詩として定着しているのはご存じの通り。昨年は10日間の会期を通じて約347万人が訪れたというビッグイベントだが、残念ながら2020(令和2)年は新型コロナウイルス感染拡大の影響から中止が決まっている。
電気の面から神戸ルミナリエを見てみると、「ルミナリエ」とは電飾を意味するイタリア語であり、電気照明を駆使した幻想的な光の彫刻である。その感動的な美しさと圧倒的な迫力の源は、もちろん電球だ。昨年の作品に使用された電球の数は約50万個。うち、LED電球が約42.4万個、白熱電球が約2.2万個、マイクロ電球が約5.2万個だそう。最初の頃は白熱電球が大半だったが、省エネのためLED化が進むと、「鮮やかできれい」という声がある一方、「色が冷たい」「温かみに欠ける」といった意見も寄せられているそうで、光のその陰ではいろいろと苦労と工夫があるようだ。
時代を照らす「東京タワー」
関東方面にイルミネーションの名所はたくさんあるけれど、ここでは「東京タワー」のライトアップをご紹介しよう。東京スカイツリーができたことで、かえって往年の大スターのような存在感が増した、昔も今も東京のシンボルである。
ホームページを参考に解説すると、平成元年からスタートした定番のライトアップは、その名も「ランドマークライト」。春・秋・冬は高圧ナトリウムランプと呼ばれるオレンジ色の光で温かなイメージを、夏はメタルハライドランプというシルバーライトを使って涼しげなイメージを演出。180灯のライトが333メートルのタワーを夜空に浮かび上がらせている。また、令和元年に誕生した「インフィニティ・ダイヤモンドヴェール」という舌をかみそうな名前のライトアップは、17段の階層に268台のLEDライトが設置され、一つ一つの光が多様に変化して無限の光色パターンを描き出している。
東京タワーのライトは1年に2回、手作業で交換されており、切れた場合にも交換作業を行うという。ちなみに、ライトアップにかかる電気代は1日平均で約2万1000円だそう。100万ドルに比べると、ずいぶん経済的なのである。