オーデリックの伝統工芸シリーズ made in NIPPON ③ ロゴやブランドに敬意 お互いの信頼関係を構築 「Win-Win」の継続可能に

民芸家具として長い歴史を誇る

担当の市川氏

三品理事長

オーデリックでは、伝統工芸とモダンデザインとの融合で日本の美意識が生きる新しいあかりを追求すべく、「made in NIPPON」と題したシリーズを展開している。今回は、岩手県奥州市の「岩谷堂箪笥」を紹介する。

岩手が誇る岩谷堂箪笥は、江戸中期天明年間(1780年代)に岩谷堂城主・岩城村将が家臣の三品茂左右衛門に製作を命じたことに端を発する。美しい木目を生かした欅の重厚な突板と桐を使用し、手間をかけた漆塗りと金具の加飾が独特の意匠を作っている。ひとつの箪笥に60〜100箇所の金具が飾られ、中央には迫力ある龍が踊り、塗っては拭き、塗っては磨くという工程を何度も繰り返して表れる漆の透明感が特徴である。
民芸家具として長い歴史を持つ岩谷堂箪笥は、現代の住宅に置くにはかなり重厚で、また決して安いものでもない。一見、電気製品としての照明器具とはかけ離れた存在のようにも思えるが、この伝統技術とのコラボレーションに至った発想とはどのようなものだったのだろうか。
岩谷堂箪笥の技法を使った照明器具の企画とデザインに携わった、オーデリック開発部のデザイナーである市川裕基氏は「始まりは偶然だった。上司の奥さんがたまたま岩手県出身だったが、東京に新居を構える際に昔から憧れていた岩谷堂箪笥に箪笥を特注したという話を聞いたのが発端。写真を見てその圧倒的な存在感にまず驚いた」と語る。企画当時は、伝統的なデザインとフローリングを使ったモダンなインテリアとのミスマッチが都市生活者が好む新しいコンセプトとして捉えられていたという。「現代の大都市の住宅に伝統的な様式は消え、かつて応接間として残った和室さえも無くなろうとしているが、私たちから和のくらしを心地良く感じる感覚が消えたわけではない。モダンな空間のなかで岩谷堂箪笥を眺めるとき、特別の感慨を抱く日本人はまだまだ多数存在するのではないかと思う」と強調する。
現在、岩谷堂箪笥は岩谷堂箪笥生産協同組合として生産・販売を行っており、歴史と伝統の継承に力を注いでいる。前述の岩谷堂の家臣三品茂左右衛門の直系の子孫である三品健悦理事長は、オーデリックとのコラボレーションに抵抗感をもっていない。「最初のお話で『岩谷堂箪笥の特徴を活かした照明器具を作りたいので協力をお願いしたい、販売も自社で行う』という条件だったので反対する理由はなかった。岩谷堂箪笥のロゴやブランドそのものに敬意を持って扱っていただいている。高価なものなので生産する数量はそれほど多くないが、洗練された住宅のインテリアにも旅館などに設えられる民芸調の空間でも岩谷堂箪笥が大切に扱われている例をオーデリックさんはビジュアル的に表現してくれている」と評価する。
異業種の企業どうしが、ある機会を得て協力関係を結ぶことは多々あるが、単にデザインでの面白さでモノづくりを行うという熱意だけでは今回の岩谷堂箪笥とオーデリックのようなビジネスの協力関係は継続できない。このケースは、どちらの側にもメリットを生み出す「Win-Win」の継続を可能にするために、プロジェクトを最初に立ち上げる際の市場の読み方がいかに重要かということはもちろん、お互いの信頼関係が何よりも大事なことを示唆しているように思える。

(中尾晋也)

施工例

電材流通新聞2020年11月19日号掲載