水銀灯代替照明特集

水銀ランプ生産終了で注目度増すLED照明

一般照明用の高圧水銀ランプが2021年以降、製造、輸出または輸入が禁止になることを受け、メーカーは順次生産を終了している。主たる代替品となるLED照明は、即時点灯による節電効果と長寿命によるメンテナンス経費の削減、演色性の高さといった利点があり、電材業界においても三位一体で提案営業を展開している。高天井照明は高温な環境下にあるということでメーカーも耐久性に優れた製品を市場に投入する一方、老朽化が進行する水銀ランプ搭載の街路灯はLED照明への交換が省施工でできる製品が販売され好評を得ている。

一般照明用の高圧水銀ランプは、2021年以降製造、輸出または輸入が禁止となる。この動きに対して照明メーカーは、ここ数年の間に順次水銀ランプの生産を終了している。
水銀ランプの用途は幅広く、工場や倉庫、体育館や駐車場、道路や公園など広い空間・敷地で数多く設置されている。
具体的には、高天井照明器具や投光器、街路灯、道路照明器具といった照明器具に使われているが、その代替の照明器具としていま注目されているのがLED照明器具である。

温室効果ガス排出抑制演色性の高さも利点に

水銀ランプの代替照明としてLED照明が求められる理由には、温室効果ガスの排出抑制という背景もある。世界各国が脱炭素社会に向けて舵を切るなか、日本も同様の対応が求められている。
今国会の所信表明で菅義偉首相は、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量について2050年までに実質ゼロを達成する目標を掲げた。その実現のための方途としては「カギとなるのは次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした革新的なイノベーション。実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進する」と表明。新しい技術やシステムを掲げ、今後の日本の方向性を示した。
しかしながら、現時点で利用可能な省エネ機器としては太陽光発電やLED照明などが挙げられる。
LED照明は、太陽光発電や高効率空調設備などを組み合わせたZEHやZEBで必要な設備となっている。
ZEHやZEBは、快適な室内環境を実現しながら住宅やビル等で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指すものだが、このような建物の普及が温室効果ガスの排出抑制の一端を担うことになる。

即時点灯による節電効果長寿命による経費削減も

水銀ランプ搭載照明器具からLED照明器具へ取り替える利点は多くある。たとえば、スイッチを押すだけですぐに点灯できることからこまめな消灯による省エネが可能で、長寿命のためメンテナンス経費の削減ができる。あるいは、演色性が高く食品、印刷、クルマの塗装工場などでは商品の色がわかりやすく、調光機能が搭載された器具なら人のいる場所など必要な箇所だけを明るくできるなど多様な使い方が可能となる。

工・製・販一体で提案活動を展開

水銀ランプの製造禁止が近づくなか、電気工事業者や電材卸業者、メーカーの「工・製・販」は、三位一体となって官公庁をはじめ民間の施設管理者やオーナーなどに向けてLED照明への取り替えメリットを示して提案活動を展開している。
長野県電設資材卸業協同組合の丸山幸作理事長は、本紙1月15日付「中部ブロック電材卸業理事長新春座談会」のなかで「水銀ランプの規制の開始時期が迫り、今後も高天井器具などでは水銀灯からLED照明への取替需要が増加すると思う。長野は工場が多く、かなりの見積依頼をいただいている。工場によっては1期、2期、3期と分けてLED化しているところもある」と語るなど、積極的に高天井器具の取替需要を三位一体になって刈り取る姿勢をみせている。

季節に応じた光の演出心をなごませる効果も

高天井照明器具が設置される工場や倉庫、体育館は夏場に高温になるという厳しい環境にあるため耐性のある製品が求められている。
岩崎電気の水銀ランプ700Wから置換え可能な、屋内高天井照明専用のLEDランプ「LEDioc LEDアイランプSP128W」は、厳しい環境となる高天井施設に対応する。特長としては、−20〜+50℃(セード無しの場合は一時的な60℃に対応)の幅広い温度範囲で使用でき、既存器具も利用できる。一般的な高天井照明に使われている同社高天井用ホルダ(O39形)とセードに適合し、水銀ランプ700W〜1000W用セード(SAW713・712)だけでなく水銀ランプ200〜400W用セード(SAW415ほか)にも使用できる。
三菱電機照明は現在、高天井施設の水銀灯のリニューアル対応商品としてLED高天井用ベースライト「GTシリーズ」を販売。ラインアップも豊富だが、なかでも一般形の高機能タイプの「SGモデル」と汎用タイプの「RGモデル」をモデルチェンジし、さらなるコンパクト化を実現。より施工性に配慮した製品に仕上げた。
ヒートシンクの小型化により、器具本体をさらに小型、軽量化し、とくにRGモデルでは高出力クラス3000を二灯から一灯化し、丸タイプではクラス3000の高出力タイプを新たにラインアップ。器具高さが縮小し、施工性の向上に加え設置天井もすっきりした。
施工性についても、アームの取付穴を追加し、指定寸法のH形鋼であれば市販の取付金具との組み合わせによる作業の簡易化で施工時間を大幅に短縮できる。
新たな機能として光源通知機能を追加しているが、光源寿命が近づくと点灯始動時に器具本体の明暗で通知し計画的な照明保全が可能となる。
ホタルクスは、常時80℃の環境で使用可能な高温環境対応形高天井用LED照明器具を9月に発売。常時80℃環境での使用に加え、夏季の昼間などは一時的に90℃環境でも使用が可能となる。温度補償機能は、使用温度範囲を超えた場合に電源装置の出力を下げることで器具温度の上昇を抑制する。炉のある工場やボイラー室など高温環境となる場所においても、猛暑となる夏場でも安心して使用できる。周囲が高温となる過酷な環境下では、温度への対応だけでなく粉塵や油煙などへの対策も求められるが、保護等級IP65の高い耐候性により多湿環境や粉塵が発生する場所でも使用できる。
星和電機は、水銀灯器具と同等の明るさのLED照明器具を各種ラインアップ。防爆形LED灯器具「LZIB-V2」は、効率のアップをはかりセラメタ灯360形相当の明るさを実現。構内道路用照明器具「WFLB-F」は、従来品のWFLAシリーズと比べて約30%光束アップしている。

近年、大型台風の相次ぐ来襲や梅雨前線の停滞により、各地に豪雨災害などが起きている。地域住民は、こうした自然災害によって体育館や公民館などの公共施設に避難を強いられ、災害規模やエリアが広域にわたり大きくなるほど、避難所での滞在期間も長くなっている。避難所では多人数での生活を強いられることになり、その対策として段ボール等で簡易の居住空間を作りプライベート空間を確保することとなるが、他人からの視界をさえぎったり間隔を空けるなど良好な環境づくりが必要とされている。
避難所の快適性をはかるにあたっては、照明の果たす役割は目立たないが大きい。従来の水銀灯照明では、夜間の就寝時間になると照明をほぼ全消灯させるため、暗闇のなかでの避難者の安全性や安心感が欠如し問題があった。
しかしながら、高天井照明をLED照明に替えることにより、明るさだけでなく快適性の向上などさまざまな利点が生まれる。
具体的には、LED照明に備わる調光機能で夜間の消灯時間でも全体を真っ暗にすることなく明るさを調整することができ、調色機能があると昼間は昼光色を使用し雨天でも明るくできる。夕方から夜間にかけては、暖かみのある電球色に変化させることで避難住民のストレスを低減させ、気分を落ち着かせる効果も期待できる。

東芝ライテックが開発したLED高天井器具 「カメラ付きLED照明 ViewLED」は、空間を見渡す位置から現状を見守ることができる。天井からの映像をネットワーク通信機能を使ってパソコンやタブレット、スマートフォンで確認することにより、建物内の人の動きや密集度を把握することができる。動体検知機能を備え、あらかじめ指定した範囲で動体を検知すると録画やアラート通知によって危険区域への侵入検知などができる。
これらの機能は、工場内の効率改善などに利用できるものだが、避難所での見守り機能としての活用も期待できる。

水銀ランプは、工場や倉庫、体育館などの大空間で、高天井照明器具の光源として利用される一方、街路灯として公園、工場施設内、広場、駐車場などで設置され利用されている。街路灯のLED化に関しては、水銀ランプの生産終了という背景とともに街路灯ポールの老朽化という問題がある。
『鋼製照明用ポール点検・診断のおすすめ』(日本照明工業会)の照明用ポールの劣化調査をみると、「設置後16年から20年で約60%が劣化進行し設置後21年以上経過すると約40%以上が撤去必要な危険状態となる。根元が錆びて腐り穴が開いた状態となりポール倒壊による重大事故の恐れがある」との報告がある。
パナソニック ライフソリューションズ社は現在、古くなった街路灯ポールを通常2日かかるところを約4時間で交換工事ができる街路灯リニューアル専用ポール「QQポール」を発売。根元を切って新しいポールを差し込んで固めるだけの省施工を実現する。
省施工を意識した製品開発の背景には、電気工事業界の高齢化がある。現在、電気工事士の年代構成は50歳以上が約60%を占める現状があるという。そのため現場では、省施工に配慮した製品が強く求められている。
劣化が進んだ街路灯は、地震や台風による倒壊の危険性もあることから省施工製品の開発・普及により早期の交換作業が期待される。
大光電機は現在、屋外照明器具「ZEROシリーズ」の第2弾としてエリアポール(街路灯)のLED化をはかる商品群をラインアップしている。シンプルかつ洗練された意匠と高い防水性能に加え、重耐塩性能を標準仕様としている。
エリアポールは、従来の水銀灯器具では実現できなかった薄型でスタイリッシュなフォルムになっており輝度を抑えた美しく機能的な光を照射し、横長配光で角型フォルムの『フロントワイドタイプ』と全方向に照射する『ラウンドタイプ』の2タイプの意匠でランドスケープを美しく演出する。

水銀ランプをLED照明化する効果として節電や省エネなどが第一に挙げられるが、空間の演出や快適性の向上という面もある。調光や調色機能を搭載した照明器具が普及することにより、社会にどのような変化が生まれるだろうか。
たとえば、調光・調色機能を搭載した街路灯や道路灯照明が街の各所にあれば四季の移り変わりに応じた光の演出が可能となる。夏は涼しげな青白い色の光を、寒い冬は暖色系の光で街を満たせば歩行者や住民を楽しませることができる。あるいは、クリスマスシーズンや夏祭りなどのイベントに合わせて特定のエリアを光で演出する工夫もできる。
こうしたことを実現するためには、「工・製・販」一体の提案営業を通じて水銀灯からLED照明への転換を進めることにより、省エネ性や明るさの感の向上という利点を社会に広く認識させることが第一歩となる。

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