インタビュー新社長に聞く イグス 吉田剛社長 日本の売上、早期に2倍 国内在庫も連携し拡大へ

イグス株式会社 日本法人 吉田剛社長


イグス日本法人の吉田剛代表取締役社長は「当社にはユニークな高付加価値製品、オンリーワンの製品が数多くある。自分はその日本法人の社長として、顧客に当社の技術や製品の良さを周知し、イグスブランドの一層の浸透を図りたい」とした上で、「グローバルでの日本法人の位置づけは、売上規模・技術面でも重要だ。日本の売上は、なるべく早く現状の2倍を目指す。これに伴い、栃木県の那須烏山工場の在庫・加工能力も増やす。日本法人でも、顧客を中心に、全従業員がワンチームで大きな付加価値を引き続き提供できるよう態勢をしっかりと整えていく」と述べた。


――新社長就任の抱負は?

「当社は、工作機械の可動用途などで使用するモーションプラスチックのメーカーとして非常に高いコンパウンドの配合処方技術と、製品開発力を持つ。これを基盤に、ユニークな高付加価値製品、オンリーワンの製品を数多く品揃えしている。自分はその日本法人の社長として、顧客に当社の技術や製品の良さを周知し、イグスブランドの一層の浸透を図りたい」
―コロナ禍の影響については、どうか?
「ドイツ・ケルンの本社工場や栃木県の那須烏山工場は通常通りの操業を続けており、コロナ禍の影響はない。特にケルン工場では、世界中で工作機械向けなどの需要が大幅に増加しているため、ケーブル『チェーンフレックス』、ケーブル保護管『エナジーチェーン』、ベアリングやリニアガイドなど『ドライテック』の生産能力を急拡大している。イグスグローバルでの日本法人の位置づけは、売上規模・技術面でも重要だ。日本拠点でも営業人員などを増やしている」

――御社ビジネスを取り巻く市場動向は?

「工作機械メーカー向けケーブルとケーブル保護管の出荷は、20暦年はコロナ禍の影響もあり低調だったが、21年初頭から着実に伸び、3~4月頃からコロナ禍の反動もあり本格的に立ち上がった。
また、ロボットや半導体製造装置向けケーブル・ケーブル保護管も繁忙で、受注残も半導体製造装置向けを中心に相当抱えている。端末加工済みのケーブルとケーブル保護管をセットで販売する『レディーチェーン』は、港湾クレーン向けに好調に推移している。
ベアリング事業は自動車市場向けに引き合いが増えており、今後も車市場関連を中心に拡販活動を一層加速させたい」

ケーブルの販売戦略保護管内を置き換え

――今後のチェーンフレックスの販売戦略は?

「国内の工作機械向けでは現状、当社製ケーブル保護管の採用比率がケーブルよりも高い。そのため、ユーザーが採用した既存の当社製ケーブル保護管内に配備されている他社製ケーブルを、当社製ケーブルに置き換える提案戦略は、従来と変わらない。当社は耐摩擦性に優れたケーブル外被を設計・開発すると同時に、ケーブル保護管では、ケーブルに接触する材質に丸みをつけたり、低摩擦の樹脂コンパウンド材料を使用してケーブルに最適な特長を持たせたりしている。当然、他社のケーブル保護管に当社製ケーブルが使用されるケースもあるが、当社製ケーブルとケーブル保護管を使用した方が、より高付加価値なソリューションとなる。具体的には、当社製ケーブルを使用することで同じ性能のケーブルに比べ、より細径化でき、同時にケーブル保護管も小型化できる。これにより、工作機械の設計の自由度が増す」

――御社日本法人の中長期的な事業戦略は?

「日本での売上は、なるべく早く現状の2倍を目指す。『チェーンフレックス』『エナジーチェーン』『ドライテック』の製品間でも、よりシナジーが生まれる提案・販売を全社一丸で行っていきたい。これに伴い、栃木県の那須烏山工場の在庫・加工能力も増やす。
また、ネットビジネスの強化にも取り組む。特にこれらの製品のインターネット販売が増え、顧客の購買形態も変わってきている。当社は既に独自のオンラインショップを開設しており、取扱製品数は約10万点。顧客が同サイトを利用すると、自社製品に最適なケーブル・ケーブル保護管・ベアリング・リニアガイドなどの品種・構造を計算・選出するオンラインツールなどが利用できる。今後もツールの種類を増やし、サービスの強化を図る。
さらに、SNSやYouTubeなどを通じたデジタルマーケティングを一層拡大し、当社の認知度を一段と向上させる」

IoT製品も実績拡大 港湾クレーン等で採用

――御社ケーブル事業の注力製品は?

「半導体市場向けを一層拡大するため、半導体やディスプレイ製造装置用ケーブル『CF CLEAN』の拡販に傾注する。これは、クリーンルーム内で使用する超薄型のケーブル保護管『e―skin flat』内に収納するケーブル。同ケーブルは外被を省き細径化することで、通常のケーブルより保護管への収納本数が多くなる。これにより、省スペース化とコストダウンを実現する。さらに、ケーブル収納スペースを個別に管理する『e―skin flat single pods』もラインナップした。これは、個別に管理できるケーブルチャンバー(ケーブル収納スペース)が特長で、ケーブルが万が一断線しても、システム全体を交換する必要がなく、コスト低減に貢献する。当社独自設計で、ケーブルの交換も簡単。さらに可動時も非常に静かな設計となっている」

――スマートプラスチックの注力製品は?
「生産現場では、設備保全の人員不足や生産のダウンタイム(中断・停止時間)削減が課題であり、IoTを駆使した予知保全のニーズが高まっている。当社ではケーブルなど当社製品に事前にセンサーを取り付け、交換時期を知らせる『iSense』と、寿命予測を行う『iCee』の2つのソリューションをIoT製品として展開している。これらの製品は、特に港湾クレーンなど、作業員による施工が難しい場所などで、状態監視や寿命予測を行っている。ケーブル関連では、引張強度や断線の進行を管理して、断線が近くなれば警告することでダウンタイムの削減、設備保全の省人化に貢献。港湾クレーンや工場内のガントリークレーン向けに、採用実績が増えている」

――最重要課題は?
「組織力の強化にある。当社の社是には、顧客を太陽とみなし、従業員が惑星のように顧客の周りを構成してきめ細やかなサービスを提供する『ソーラーシステム』がある。当社には、当社製品への情熱を持つ、熱心で優秀な従業員が数多くいる。日本法人でも、顧客を中心に、全従業員がワンチームで大きな付加価値を引き続き提供できるよう、態勢をしっかりと整えていく」

【略歴】
吉田剛(よしだ・つよし)氏=1970年8月23日生まれ。93年3月東北大学を卒業し、同年4月日立製作所に入社。19年4月ABB取締役バイスプレジデント モーション事業本部長を経て、21年10月イグス代表取締役社長に就任。趣味は音楽鑑賞、特にジャズを嗜む。

電線新聞 4258号掲載