無電柱化推進特集 各種製品・システムの 低コスト化を前面に

災害や高齢化への対応目的になど

毎年のごとく押し寄せる自然災害のなか、無電柱化がいまや喫緊の課題となっている。国土交通省は、今年5月に令和3年度を初年度とする新たな「無電柱化推進計画」を策定した。その一方で、関連メーカー各社も歩調を合わせるかのように各種製品・システム(施工技術など)の低コスト化に注力しており、今後の進展に目が離せない。

無電柱化推進展(7月・大阪)

新たな「無電柱化推進計画」を策定

毎年のごとく押し寄せる自然災害のなか、無電柱化がいまや喫緊の課題となっている。国土交通省は、今年5月に令和3年度を初年度とする新たな「無電柱化推進計画」を策定した。その一方で、関連メーカー各社も歩調を合わせるかのように各種製品・システム(施工技術など)の低コスト化に注力しており、今後の進展に目が離せない。

11月24日から26日までの3日間、東京・有明の東京ビッグサイトで「第8回無電柱化推進展TOKYO2021」が開かれる。
主催者は、開催にあたり「国内唯一の無電柱化に特化した専門展示会。無電柱化は、防災性向上、安全性、快適性の確保、良好な景観等の観点から実施がされてきたが、近年の災害の激甚化、頻発化、高齢者、障害者の増加、2025年日本国際博覧会(大阪)の開催による訪日外国人をはじめとする観光需要の増加等により、その必要性は増している。『防災』『安全・円滑な交通確保』『景観形成・観光振興』の観点から、電柱のない街づくりを支える技術、サービスを発信する」と意義を強調する。
会場では、東拓工業をはじめとする各種関連メーカーが市場ニーズに応える製品、システムなどを一堂に展示する。

電線類の地中埋設化、いわゆる無電柱化の歴史は戦中・戦後にさかのぼる。「日本の植民地に軍が建設した都市で埋設化が行われていた」といった説もあるが、戦中の物質が不足するなかで窮余の一策として電線の地中化が行われたことは想像にかたくない。
日本国内においても、東京・文京区などがいち早く無電柱化に取り組んだが、それが広まらなかったのは空襲を受けて国土が灰燼に帰したことから復興の手段として「安く、早く整備できる」(国土技術政策総合研究所)として電柱が選ばれたためでもある。もっとも、電柱は一時的な措置で、復興が軌道に乗れば地中化を進めるといった構想も当時はあったようだ。
その後、導入を阻害する大きな壁が出来する。最大のものはコスト面。
京都市では、景観保全を目的に1995年から事業を進め、東山区のねねの道や花見小路通など総延長計9・62㎞、35路線で無電柱化を完了しているが、財政難を理由に今年に入り向こう3年間事業を中断することを決めた。ちなみに、観光地の道幅が狭い箇所は1㎞あたりの費用が約9億円かかり、その結果、20年度までに要した費用は約86億円で、国からの補助金を差し引いても、京都市の負担は33億円にのぼったという。
これをみても明らかなように、コスト面が当面の課題だが、関連業界ではこうしたことに対応すべく製品・システムなどにおいてさまざまな試みを行い、低コスト化を進めつつある。第8回無電柱化推進展では、出展各社がこうした低コスト化を前面に押し出して訴求するものとみられる。

ところで、無電柱化についてこれまで「欧州やシンガポールでは無電柱化が100%に近く街中では電柱がみられない」など、海外の例を持ち出して我が国の遅れが指摘されてきた。しかしながら、机上の空論に等しく、実状を無視したものといわざるを得ない。電気設備のない歴史的建造物を保存してきた海外では、景観に対するこだわりもひとしおで、それが無電柱化とつながっているとの見方ができなくもない。

以前、スペインのバレンシアで高層マンションのワンフロアを借り切る設計事務所の所長を訪ねたことがある。通訳を介しての取材で話にも分明でない点が多かったが、それでも街周辺(景観も含めた)の管理に関わっていると教えられたことがいまも印象に残っている。
文化に対する国民性の違いといえば大げさだが、街の成り立ちと景観に対する意識の違いこそが欧州と日本との格差を生んでいるのではないだろうか。もとより、冒頭で触れたように戦後の歴史のなかで、我が国でも無電柱化に関心が持たれた事実がある。

とはいえ、いつしか道幅の狭い頭上には架空線が蜘蛛の巣のように張り巡らされ、今日に至っている。当初は、おもに景観上の問題から無電柱化が進められてきたが、ここにきて事情が変化している。例年のごとく押し寄せる自然災害の対策としていま、無電柱化が喫緊の課題となっている。

一昨年9月の千葉県を襲った台風15号では、大量の電柱の倒壊が広範囲にわたり、長期におよぶ大規模な停電を引き起こした。こうした状況に鑑み、昨年12月に閣議決定された『防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策』により電柱倒壊のリスクがある市街地等の緊急輸送道路の無電柱化が進められ、今年5月には頻発する災害や高齢化などへの対応を目的に国土交通省では令和3年度を初年度とする新たな「無電柱化推進計画」が策定された。

自然災害で倒壊した家屋

蜘蛛の巣状態の電線