26年度MiDIP生産能力5倍
銅合金線、医療・半導体分野へ進出
昭和電線ユニマック 山村隆史社長
昭和電線ユニマックの山村隆史取締役社長(昭和電線ホールディングス常務執行役員)は、足元の市場環境について「新型コロナウイルスや上海ロックダウン、半導体の供給不足、ロシアのウクライナ侵攻により、様々な材料が値上がりし、市場環境が悪化した」と語った。また、グループが策定した中期経営計画達成に向け「重電・産業機器中心の事業構造から、付加価値の高いモビリティ関連製品・電子部品関連製品の生産にポートフォリオをシフトする」とした。また、来年4月の事業会社「SWCC」誕生における、事業統合への強い思い入れを語った。
—御社ビジネスを取り巻く市場について伺いたい。
「新型コロナウイルス、上海ロックダウン、半導体の供給不足、ウクライナ侵攻により様々な材料が高騰し、22年度上期は厳しい状況だった。当社はモビリティ関連事業がメインとなるため、自動車の生産台数を注視しつつ、挽回生産に期待している。今年度の第2四半期で積み上がっていた部品メーカーの在庫が、第3四半期以降は解消されると期待していたが、逆境は当面続きそうだ。
一方で、重電分野関連事業は、歴史的な円安や物流費高騰の影響があり、世界的に巻線などの汎用製品は値上がりしている中で、当社の国内製品は相対的にリーズナブルとなった。顧客のリスク回避の観点からも需要増を見込んでいる」
—21年度の事業実績は?
「コロナショック後にあたる上期は、V字回復景気も後押しし、自動車用巻線やヒータ線、無酸素銅など、モビリティ関連事業を中心に好調だった。しかし、下期は半導体不足により急ブレーキがかかった。ただ、銅価高騰などもあり、21年度通期では巻線事業の営業利益は当初の計画を上回った」
—22年度の事業見通しは?
「21年度の下期から続く半導体不足、ウクライナ情勢、上海ロックダウンの影響が尾を引いている。モビリティ関連事業、電子部品関連事業は、非常に厳しい状況だ。具体的には、車載用の極細平角巻線やインダクタなどのコイル部品の需要がまだ上向いていない。電子部品関連では、ゲーム機用のインダクタなどが半導体不足の影響により生産が落ち込んでいる。重電分野関連事業は堅調だが、22年度通期でみると、見通しは厳しい」
—各事業の社内シェアは?
「金額でみると、重電分野関連が5割、モビリティ関連が4割、電子部品関連そのほかが1割になる。モビリティ関連を1割増やす計画だったが、22年度の国内の自動車用巻線の市場は、21年度と比較して10〜15%縮小していることから、計画通りにはなっていない。ただ、自動車のEV化は進んでいるため、コロナが沈静化し、半導体不足が解消されれば、24年には自動車用巻線の需要は増えると見込んでいる。そこを見据えて、現在はIoT活用などによる設備投資を進めている」
車載用平角巻線 生産能力5倍へ
—注力製品は?
「HV車やEV車の駆動モーター向けの車載用平角巻線だ。自動車の電動化により、今後需要が増えるという見通しから、本社工場(三重県いなべ市)のラインを増設し、26年度の生産能力を、20年度比で約5倍にする。
国内唯一のディップ・フォーミング・システムで製造される高機能無酸素銅MiDIP(ミディップ)は、自動車用高機能巻線の母材となる。こちらも26年度までに20年度比で、50%増産を計画している。現在、昭和電線ケーブルシステム(昭和電線CS)三重事業所内にある本社工場で、設備の改修やIoT化を進めているところだ。
銅銀合金線も、自動車電動化による需要増を見据え、仙台工場(宮城県亘理郡)の設備を増強している。銅銀合金線は、熱伝導性や屈曲性に優れることから、シートヒーターなどに使われる。そのほかに半導体分野や医療機器向けにも用途を広げている」
—銅銀合金線の生産体制は?
「現在の生産工程は、昭和電線CSの仙台事業所(宮城県柴田郡)で銅銀合金を作り、昭和電線ユニマックの仙台工場で、伸線、焼付、撚り合わせまで行い、完成した合金線を昭和電線CSの仙台事業所に戻して出荷する、という工程だった。これを一貫生産して効率を上げるために、8月から撚り合わせ設備を仙台事業所に移し、さらに増強した。将来的にはすべての工程を仙台事業所で賄う予定だ」
—中長期的な事業計画は?
「グループが策定した中期経営計画『Change&Growth SWCC 2026』の達成に向け、重電および産業機器中心の事業構造から、技術力により付加価値をつけたモビリティ関連製品・電子部品関連製品の生産にポートフォリオをシフトすることだ」
来年4月の統合で巻線事業を強化
—カーボンニュートラルやSDGsへの取り組みは?
「MiDIPを製造する本社工場は、ガスや電気などのエネルギー消費量が多い。CO2排出量を削減するためにグリーンエネルギーを導入し、脱炭素社会への貢献を進める。工場の古い設備を最新設備にリニューアルし、CO2排出量を減らしていくことは今後も継続する」
—人手不足や人材確保への対応は?
「本社工場の近隣には他社の工場も進出しており、人材の争奪戦が起きている。福利厚生のアピールとして、昨年工場に隣接する社宅を建て替えた。地元の高校や専門学校とも連携し、優秀な人材の継続的な確保に努めている。
また、今年8月には昭和電線CSの三重事業所と相模原事業所で、『夏のリコチャレ2022』を開催した。理工系分野に興味がある女子中高生らに、職場見学会や女性エンジニアとの交流などを体験してもらった。将来の自分をイメージして進路選択することを応援する取り組みだ」
—最重要課題は?
「昭和電線ユニマック、昭和電線CS、昭和電線ホールディングス(昭和電線HD)の3は来年4月1日に統合する。統合後の事業会社「SWCC」における電装・コンポーネンツ事業をさらに強化させることが最重要課題だ。
今回の統合には強い思い入れがある。01年に巻線事業の合弁会社としてスタートしたユニマックは当時、合弁会社が陥りがちな意思決定の遅れなどが生じていた。19年4月に昭和電線CSとのシナジー効果を図るため、社長に就任、10月には昭和電線HDの完全子会社となり、社名も昭和電線ユニマックに変更となった。4年掛かりとなったが、今回の統合により、昭和電線CSとのシナジー効果を高め、グループ一体となって巻線事業を強化し、成長軌道に乗せていきたい」