電工さんの工具箱 第20回「電工ハサミ」手軽に幅広く使える切断工具。

カニやエビは、なぜハサミを持っているのか?

 リアクション芸人と呼ばれる出川哲朗さんの“鉄板芸”といえば「鼻ザリガニ」だ。ザリガニに鼻を挟まれて大げさに痛がるリアクションが爆笑を生むわけだが、実際、あれは本当に痛いと思う。ザリガニだからまだ笑えるものの、あれが「鼻ロブスター」や「鼻タカアシガニ」だったら、ひく。雑菌などによる感染症の心配もあるらしいので、良い子のみんなは絶対に真似をしないでいただきたい。

 生物学的なことはわからないが、ハサミを持つ生き物は意外と多く、カニやエビはその代表格だ。中でも、ヘタをすると人間の手よりも大きなハサミを持つロブスターが最強かと思いきや、「それは違うガニ!」と異を唱える者が現れた。「甲殻類最大最強は、わしだガニ!」とのたまうのはヤシガニである。

ヤシガニ

 ヤシガニは、カニと名乗っているくせにエビ目オカヤドカリ科に属しており、まさに貝殻から出てきたヤドカリの親分みたいな風体をしている。太平洋からインド洋にかけての島々に広く分布し、日本では沖縄などに生息。大きな個体になると、脚を広げた体長が1m、体重が4kgにもなるというモンスターだ。そんなヤシガニのハサミがまた怪物級で、「沖縄美ら島財団」の研究によると、体重4kgのヤシガニが持つハサミの力が約340kg。これは、ライオンのかむ力に匹敵するほどだという。成人男性の握力が平均45kgほどであることを考えれば、驚くべき力の持ち主といえよう。その驚異のパワーで何をするかというと、大好物のヤシの実を割って食べるのだ。

 ともあれ、人類が誕生する遥か昔から、生物たちはハサミを使っていたのである。

人は、いつからハサミを使い始めたのか?

 さて、ヤシガニよりも力の弱い人間がハサミを持つようになったのは、いつ頃からなのか。

 ハサミの歴史は古く、紀元前1500年頃、つまり今から約3500年前にはあったとか、なかったとか。そんな中で紀元前1000年頃にギリシャで使われていたハサミが、現存する最古のハサミとされている。これはU字型と呼ばれる形状で、日本でいえば和裁などに用いられる小さな「握りはさみ」と同様のもの。古代ギリシャでは羊の毛を刈り取っていたと考えられている。また、毛織物の毛羽立ちを切るハサミもあり、そちらは全長1mほどの大きさだそう。一方、現在の主流であるX字型のハサミは紀元前27年、古代ローマ時代の鉄製ハサミが最古とされている。

 日本にハサミが伝わったのは6世紀頃と考えられており、古墳からも出土しているが、きちんと現存する最古の握りはさみは鎌倉時代のもの。源頼朝の正室であり日本三大悪女とも称される北条政子が化粧道具として使っていたものが鶴岡八幡宮に残されている。

電工ハサミは使えるのか?

マーベルMMS-833RN 電工ハサミ R刃

ジェフコム電工マルチハサミ

 そして現代には、ヤシガニのハサミにも負けない(?)パワフルなハサミがある。電気工事の配線作業などの際、電線やケーブルを切断するのに用いる電工ハサミだ。電気工事士が使う切断用の工具といえばニッパーやペンチが主流だが、電工ハサミの利点は、扱いやすくて切れ味が良いこと。電線だけでなく薄い鉄板なども切れてしまう。従って配線作業はもちろん、鉄部の加工作業などにも使えるし、Mバーなどの処理やバリ取りもできるという、意外に用途の広い便利な工具なのだ。また、タイプにもよるが重量の軽いものが多く、腰袋に入れていてもさほど負担にならない。各メーカーから電工ハサミや万能ハサミといった名称で、さまざまなタイプが発売されているので、まだ使っていない電気工事士の方は要チェックだ。

アイキャッチ JAPPY強力電工はさみ