世界各国の電力事情を比べてみる(2)
前回は「世界の電力格差」についてご紹介しました。
電気普及率が100%の先進国と、一方では国土の半分以下の地域にしか電気が通っていない発展途上国、また電気料金も国によって大きな開きがあることもお分かりいただけたと思います。
続いて今回は「日本国内の発電供給の割合(火力・水力・原子力・再生可能エネルギーなど)」と世界との比較、また「今後の電気エネルギーが抱える課題」などについてご紹介していきたいと思います。
日本では、2011年に発生した東日本大震災の福島第一原発事故によって、現在は原子力発電に対する否定的な意見が主流になっています。
そんな状況も踏まえて、まずは日本のエネルギー・電力の供給量割合がどのように変化してきたのかを、経済産業省エネルギー庁が発表する「エネルギー白書(2018年版)」を参考にしながらご紹介していきたいと思います。
1965年頃まで日本の発電の主要電源は水力でした。その後、1973年のオイルショックまでは石油、その後は石炭とLNG(液化天然ガス)、そして原子力発電の割合が増加していきます。しかし2011年の東日本大震災の後、原子力発電はほぼゼロに減少し、その分LNGが増加して現在に至っています。
2016年の時点では、LNGが42.1%、石炭32.3%、石油が9.3%、歴史の長い水力発電は7.6%、原子力はわずかに増えて1.7%、そして近年期待されている再生可能エネルギーが6.9%となっています。
日本のエネルギー・発電の供給量割合
(出典)経済産業省エネルギー庁「エネルギー白書2018」
次に各電力源の特質についてご紹介します。
まず「水力発電」ですが、1965年頃まで日本の発電の主要電源であったことは前述の通りです。ところが1975年に黒部ダムが完成した頃から、その供給量はあまり変化していません。
「水力発電」は維持コストが低く、CO2排出が少ない自然エネルギーである反面、ダム建設にかかる膨大な費用と、水没による社会・環境破壊のリスクが大きく、現在は大規模なダム建設は慎重になっています。
次に「火力発電」ですが、かつて火力発電といえば「石油」が主流でした。いまでもその認識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実際、1960年頃から急速に原油の輸入量が増加しており、日本は高度経済成長の時代を迎えます。次々に誕生する工場や企業オフィスに電力を供給して、石油は日本の高度経済成長を支えたのです。
しかし1973年のオイルショック以降は石油の需要が減り、代わって石炭やLNGによる火力発電所が増加していきました。
現在では石油の依存率は、発電に関していえば全体の9.3%と高いものではありません。
「石炭」は現在は100%が輸入です。しかし日本はかつて石炭大国でした。福岡県の筑豊炭田、炭坑節で知られる三井三池炭鉱、映画「フラガール」の舞台となった福島県の常磐炭田、世界遺産の長崎県の軍艦島など、全国には800もの炭鉱がありました。しかし戦後は石油と海外からの安価な輸入石炭の影響で需要が減り、現在では釧路炭田が国内唯一の稼働炭鉱となっています。
そんな石炭でしたが、オイルショック以降に再び脚光を浴び、現在ではLNGに次いで2番目の発電量を誇っています。輸入元としては、オーストラリアが76.5%、インドネシアが10.8%などとなっています。
「LNG」とは液化天然ガスのこと。ガスというとお風呂の給湯や調理コンロを連想しがちですが、実際に日本で使われているガスの70%以上は火力発電の燃料なのです。
天然ガスは、採掘現場から気体のままパイプラインで流通させるものと、冷却して液体にしたLNGがあります。産地から陸続きのヨーロッパやアメリカではパイプラインでの輸送が主流ですが、島国の日本はLNGの形でタンカーに載せて輸入しています。輸入元としてはインドネシア、マレーシア、オーストラリア、カタール、ロシアなど多岐にわたっています。
「原子力発電」は前述の通り、東日本大震災以降すべての原子力発電所が稼働停止となりました。
もともと原子力発電は、日本の高度経済成長期に膨れ上がる電力需要を賄うために政府主導で推進されてきた歴史があります。
原子力発電の最大のメリットは、なんといっても発電コストの安さにあります。またCO2を発生しないため環境にやさしいという利点もあります。しかし事故が起きた場合の対策費用が莫大であること、また環境破壊が甚大であることから、原子力発電そのものに異議を唱える人々が多くいることも事実です。
2015年に九州電力の川内原子力発電所が運転を再開、2016年には関西電力の高浜原子力発電所が運転を再開しましたが、大津地方裁判所の仮処分決定により再び活動を停止。今後の展開が待たれるところです。
再生可能エネルギーの現状
「再生可能エネルギー」の現状をご紹介しましょう。
ひとくちに再生可能エネルギーといっても多岐にわたり、太陽光発電(PV)、太陽熱発電(CSP)、風力発電、地熱発電、バイオマス発電、潮力発電などがこれにあたります。
震災前の2009年には1.1%でしたが、2016年には6.9%に増加。しかしまだまだ低い割合です。今後の技術革新によって、その割合が増加することが期待されています。
次に世界の電力供給量割合に目を向けてみましょう。
全世界の発電手法は以下のようになります。(2015年データより)
石炭39.2%、天然ガス22.8%、水力16.3%、原子力10.6%、石油4.1%、風力3.4%、バイオマス1.8%、太陽光1.0%、地熱0.3%など。
国別に着目すると、フランスは原子力発電の占める割合が約75%と突出しており、アメリカ、イギリス、ベルギー、スイス、スペイン、スウェーデン、フィンランドなども高い割合になっています。このうちスペインは原子力発電所の新設を停止、ベルギーやスイスなども将来的には全廃することが決定しています。
水力発電の割合が高い国はカナダ、アイルランド、ノルウェー、スェーデンなど。東南アジアや中東諸国は火力発電が主流になっています。
世界の国々と比較して、日本は比較的バランスのとれた電力供給量割合になっている点も注目したいところです。
現在、ヨーロッパの先進国を中心に再生可能エネルギーの研究が積極的に行われています。今後の供給割合がどう変わっていくのか、注目していきたいところです。
<世界の発電供給量割合>
(出典)IEA “Key World Energy Statistics 2017″をもとに作成
最後に「電気エネルギーの今後の課題」について考えてみたいと思います。
エネルギー資源の乏しい日本は、そのほとんどを輸入に頼っており、海外依存度は88%にも達しているのです。
しかし原油の主要輸入元である中東諸国は、かつては「中東戦争」、近年では「アラブの春」や「イラン核問題」などが度々起こり、つねに政情が不安定です。このような地域からの資源は、安定的に供給が行われるかという懸念はもちろんのこと、価格が不安定という問題もあります。
これに対処するために推進されてきた原子力発電も、東日本大震災以降はほぼ停止した状態です。
またLNGや石炭による火力発電も、CO2の排出によって地球温暖化の原因になっているという指摘もあります。
日本の電力会社は政府と一体となって、これらの問題をクリアしながら電力の安定供給を実現しなければなりません。
現在の厳しい電力事情を理解した上で、わたしたち一人一人に何ができるかを考えていくことが必要といえるでしょう。
<主要国の一次エネルギー自給率比較(2014年)>
(出典)IEA「Energy Balance of OECD Countries 2016」を基に作成(※表内の順位はOECD34カ国中の順位です。)