【トップインタビュー】 フジクラ・ダイヤケーブル  久下 忠利社長

デジタルものづくり 同軸など増産
5G需要は21年から期待


フジクラ・ダイヤケーブルの久下忠利社長は「生産面での設備投資は、システム構築も含め(福井工場では同軸、他の拠点ではCVケーブル向けなど)デジタルものづくりを毎年継続して行う。また、5G向け基地局用高周波同軸ケーブルの本格的な需要は21年度からとみており、5Gは4Gに比べ小型設置局数が数段増える」と述べたうえで、今後の注力製品について「当社が19年4月にフジクラから移管した『3kV〜33kVの高圧電力CVケーブル』は、張替需要などの様々なニーズに対応していきたい。さらに発電関係向け低圧ケーブル需要が21年度頃まで好調な模様だ」と述べた。


—建販電線市場の現況と19年度下期の見通しは?
「現状、建販電線市場は、東京オリンピック・パラリンピックの施設建設や首都圏再開発などに加えて、学校のエアコン設置にともなって活況を呈している。エアコン設置の需要では、全国公立小中学校の17万普通教室が対象になっているうえ、東京都などの公立小中学校の体育館でエアコン導入に動いたことも牽引している。当社の今年度第1Qの建販電線受注は好調であり、一部工場ではフル稼働が続く。
ただ、今後、東京オリパラ向け施設建設の需要がピークアウトしていくとみられ、19年度下期の建販需要はやや減速する見通し。
一方、今後も学校の教室などへのエアコン設置は、ある程度続くだろう。また、発電関係向け低圧ケーブル需要が21年度頃まで好調な模様だ。さらに同軸ケーブルは今後の需要増に期待している」

—同軸ケーブル事業のうち、携帯電話の基地局用高周波同軸ケーブル市場で御社のシェアは高いようだが、第5世代移動通信(5G)向け同軸ケーブル市場の見通しは、どうか?
「(現在は携帯キャリアによる5G総合実証実験の段階であり)5G向け基地局用高周波同軸ケーブルの本格的な需要は、21年度からとみている。5Gでは4Gに比べスモールセル(小型基地局)設置局数が数段増えることから、そうした同軸ケーブル需要を捕捉する。同時に、その基地局周りや5G/IoTの進展でビジネス拡大が期待できそうだが、身の丈に合った形で進めていきたい」

建販電線の再編現状変化なし、来春から動き見極める必要あり

—物流費値上げなどの問題については?
「建販電線ケーブルなどの配送費の上昇にともなう実費的な値上げは、ユーザーから一定のご理解を頂いている。ただ、切断加工費のアップ分の値上げを含め満足には進んでいない。今後ともユーザーに対し、値上げの完全浸透に向けて根気強く、交渉を続けていく」

—建設電販(5品種など)市場分野で古河電工グループと昭和電線グループの再編・統合の影響は?
「その動向をしっかりと見極める必要がある。ただ、現状は変化が無い。両社グループの再編が履行されるのは、来年4月からであり、動きが変わるのは来春からになるだろう、いずれにしても当社の事業指針である製販一体型の産業用電線メーカーとして、ユーザーを第一に、ニーズにマッチした製品の開発、品質アップや細やかなサービスの向上を遂行していくことは今まで通りでブレることはない」

—御社の19年3月期(18FY)通期連結業績は?
「18FYは、出荷銅量は前年度比約10%増で、売上高約703億円(前年度比4.2%増)、営業利益約10億円(同45.2%減)と増収も減益になった。建販電線は下期に掛けて需要が動き出したものの、物流費の高騰などを含んだ適正マージンの確保が進まず、減益を計上した」

—御社の20年3月期(19FY)通期連結事業計画は?
「19FYは、出荷銅量は同微増で、売上高は前年並みとし、営業損益で増益を目指す。19FY建販電線の需要状勢は、上期先行型となり下期は鈍化する見通し。先に述べた通り、第1Qは建販電線の出荷が好調に推移した。上期は建販電線市場が、東京五輪の施設建設の追い込みや首都圏再開発などに加え、全国公立小中学校のエアコン設置などにより牽引している。しかし、下期は五輪の施設建設が鈍化する見通し。また、利益面では物流費の値上げなどを含め適正利益の確保に向けた展開を全社員一丸となって推進し、増益にしたい」

社長直下のプロジェクト室設立で25年の大阪万博、IR需要を取込

—注力製品・技術や販促戦略については?
「注力製品・技術では、①当社が19年4月にフジクラから移管した『3kV〜33kVの高圧電力ケーブル』、②トヨタ自動車と共同開発した『活線シース絶縁不良点測定装置LILIA—150T』、③『同調式回路を採用した部分放電測定器A115』などがあり、販促戦略では新たに発足した④新規プロジェクト室の発足などが挙げられる。
①の『同高圧電力ケーブル』については、張替需要などの様々なニーズに対応していきたい。
②の『活線シース絶縁不良点測定装置LILIA—150T』は、世界初のケーブル事故を未然に防ぐ装置で(独)労働者健康安全機構の労働安全衛生総合研究所・所長賞を受賞した。
③の『同部分放電測定器A115』は、様々な規格に準拠した試験を低ノイズで行える新機種であり、引き合いが増えている。
④は8月に発足したばかりの『2025(ニ・マル・ニ・ゴ)KANSAIプロジェクト室』。これは25年に開催される「大阪万博」、大阪IR(=統合型リゾート)構想にともなうパビリオンやホテル建設、交通アクセス網整備関連需要の集中的な取り込みを図ることをターゲットにした。社長直下に組織を設置し、各カンパニー、技術部門、スタッフ部門がその都度支援、サポートし、より適切かつ効率的な事業展開が図れるようにした。受注を獲得するなど、既に徐々に成果が出はじめた」

—御社の営業拠点・物流拠点の取組は?
「営業拠点・物流拠点とも、需要状勢を鑑み、この間、最適化を図ってきた。物流拠点については17年5月に白岡倉庫(埼玉県白岡市)を、熊谷工場(埼玉県熊谷市)に再編・統合した。従来、熊谷工場で生産した製品を、白岡倉庫に運んで、仕分けして出荷していたロスを削減し、熊谷工場の製品をダイレクトにユーザーへ出荷できるようにした。一方、営業拠点については、沖縄営業所を支店に格上げし、大分/南九州営業所を九州支店に統合するなど従来11拠点あったのを9支店体制(本社除く)にした」

工場見学でユーザーの意見、要望を反映するオープンファクトリー

—デジタルものづくりなど設備投資は?
「生産面での設備投資は、システム構築も含めて毎年継続して実施。デジタルものづくりは、本社のPC上で生産ラインの動向が把握できるようになった。さらにEDI(エレクトロニック・データ・インターチェンジ=受発注、出荷、請求、支払いなど企業間で各種取引情報を通信および伝送し、パソコンで自動的に処理するシステム)とのコラボ導入で、顧客がペーパーレスで直接・営業部門へ製品が発注できるようになった。これによって誤発注や営業事務などの面での様々な手間が省け、素早く、正確に業務が進むようになった。それも含めると、デジタルものづくり構想の進捗率は、70%まで達した。ただ、需要環境や品種構成などの変化で、進捗率が変動することを予め理解し、デジタルものづくりに取り組んでいる。
また、一方で『工場がものを売る』オープンファクトリーを目指す」

—『工場がものを売る』オープンファクトリーとは?
「熊谷工場などでショールーム等を設けて既に、取り組んでおり、やがて当社全4工場で『工場がものを売る』オープンファクトリー態勢を採る方針。これは多くのユーザーの方々等に、工場見学して頂き、その際に、いかなる新製品が役立つのか、便利なのか、さらには既存製品のどこを改善すれば良いのか、などの意見や要望等を頂戴したいと思っている。場合によっては、デジタルものづくりのシステムを用いて、こうしたニーズをその場(工場)で、何らかの形でシミュレーションできるかもしれない。つまりユーザーの意見を参考にして製品開発等に反映し、常に製品開発〜納入までユーザーに寄り添っていくのが、デジタルものづくりシステムの真髄とも言える。
また、オープンファクトリーは、社員及び地元住民の方々の安心、安全の確保を大前提とした。熊谷工場の事例では、工場敷地にあったブロック塀を撤去し、地震などの際にも危険性が無いように住民などの歩行者が工場隣接の道路を安全に歩きやすくするなど、色々な工夫を施した」

電線新聞 4174号掲載