電工さんの工具箱 第19回「ラジオペンチ」細かい作業に便利な一本。

なぜ、「ラジオ」ペンチ?

TANEJIROさんによる写真ACからの写真  

 「JOAK、JOAK、こちらは東京放送局であります」。――1925(大正14)年3月22日、日本で最初のラジオ放送が行われた。連休2日目の日曜日、午前9時30分のことだ。東京放送局とはつまり、現在のNHKの前身である。当初は、芝浦にある東京高等工芸学校の図書室を仮スタジオにして放送を開始。受信契約数は約3500。1日の放送時間は約5時間。受信料は月額1円だったという。その約4カ月後には愛宕山の本放送局が始動し、東京に続き大阪、名古屋でも放送局が開局して、“ラジオの時代”が幕を開ける。アメリカのピッツバーグで世界初のラジオ放送が行われてから5年後、未曾有の大災害である関東大震災から2年後、そして、テレビ放送が始まる28年前という時代だ。

 ちなみに資料によると、テレビの本放送が開始された当時、つまり令和元年から66年前に発売されたテレビ受像機はシャープ製の14型で、価格は17万5000円。高校卒の公務員の初任給が5400円だったというから、給料2年9カ月分である。

 ラジオも庶民が買えるような代物ではなかったが、昭和に入ると低価格化が進み、徐々に普及した。テレビもインターネットもない時代、人びとの貴重な情報源となり、娯楽や文化のまさに発信源となったのがラジオだ。ニュースや天気予報はもちろん、音楽、落語、ラジオドラマに至るまで、さまざまな番組が放送されていたという。1928(昭和3)年には、今も親しまれている「ラジオ体操」が登場した。

 そして、時代とともにラジオ受信機も進化し、戦後はラジオの全盛期を迎える。人びとはラジオを手作りし始めるのだ。前置きが長くなったが、そこで登場したのが「ラジオペンチ」だ。

シンプルタイプから多機能タイプまで。

 ラジオペンチとはその名の通り、ラジオの組み立てや分解に適したペンチであり、もともとは主に電気・電子機器の工作用としてつくられた工具のようだ。略して「ラジペン」と呼ばれる。専門的ではあるが、いろいろ使えて便利なためか一般家庭にまで普及している。

 はさむ、つかむ、曲げる、ねじる、引っ張るなど、主な用途は通常のペンチと同じだが、ここで言うまでもなく、くわえの部分が先にいくほど細くなっていて、狭い場所や細かい作業に適している。刃部があるタイプは、細めの鉄線なども切断できる。先端が長いロングタイプ、短いショートタイプ、曲がっているタイプなど、さまざまな形状があり、また、フジ矢の「万能ラジオペンチ」のようにコードの割り込みや簡易圧着、線材の皮むき、小ネジやナットなどをくわえて回すといった多機能タイプもある。

画像提供:フジ矢株式会社320S-150 万能ラジオペンチ

 ともあれ、現場ではもちろん電気工事士の技能試験でもあると便利な工具である。持っていない電気工事士もいるようだが、一度使ってみると手放せなくなるかもしれない。