~東京オリンピックのあと日本経済は、どうなる!?~
いよいよ今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。現在はオリンピック需要もあり、電気業界も活発に動いているようです。
しかし「いまはいいけれど、オリンピックが終わったとたんに不況になるのでは?」と懸念する声もありそうです。そこで今回は、東京オリンピック後の日本経済の動向を予想してみようと思います。
その前に、1964年に開催された前回の東京オリンピック後の日本経済の動きと、これまでオリンピックを開催した国々の経済情勢を調べてみたいと思います。
前回、東京オリンピックが行われた1964年(昭和39年)前後の、日本の実質GDP成長率は以下の通りです。
【実質GDP成長率】
出典:(資料)内閣府「長期経済統計」より、みずほ総合研究所作成
開催3年前はGDP成長率は約12%以上と好調です。これは各競技場の建設や、新幹線・高速道路などのインフラ建設が最盛期を迎えた時期と重なります。
開催した年も11%超えと好調ですが、その翌年は5%台に落ち込んでいます。これは「昭和40年不況」と呼ばれ、オリンピック特需がなくなったことが原因と考えられます。
しかしその後はしだいに回復し、4年後には約12%の経済成長率を取り戻しています。
1970年の大阪万国博覧会に向けて、日本はまさに高度経済成長の時代だったといえるでしょう。日本がGDPで世界第2位の経済大国になったのもこの頃のことです。
それでは次に、日本以外のオリンピック開催国について調べてみましょう。
【オリンピック開催国の実質GDP推移】
出典:(資料)IMF、CEIC、Haver、ドイツ連邦統計局、カナダ統計局等よりみずほ総合研究所作成
【過去の夏期五輪開催国の実質GDP】
オリンピック開催後のGDPの推移をみてみましょう。
モントリオール、バルセロナ、ソウル、北京などの都市はオリンピック開催後のGDPが飛躍的に伸びています。またシドニー、アテネなどの都市も緩やかではありますが伸びています。これはオリンピック開催に向けてインフラ投資が積極的に行われたからで、それが刺激となって開催後も経済が順調に発展したからだと思われます。1964年当時の東京と似ています。
一方、ミュンヘン、アトランタ、ロサンゼルスなどは、オリンピック開催とは関係なくGDPが推移していることがわかります。これら先進国の都市は、オリンピック開催のためのインフラ投資が上記の国々よりも小さく、その後の経済活動にさほど影響しかったためだと思われます。
ただしグラフでは紹介していませんが2016年のリオデジャネイロだけは例外で、オリンピック開催年以降もGDPがさほど上がらず、数年後には大きなマイナスとなりました。これはもともと経済状態がよくなかった上に、政治の混乱などが原因だと思われます。
さて、これらの例を踏まえた上で、東京オリンピック後の日本経済がどのように動くかを推理してみましょう。
2020年以降の東京はアトランタ、ロンドンなどと似た経済成長率になるのではないかと思います。
例えば2012年以降のロンドンを見てみましょう。北京やアテネなどでオリンピックのために建設された会場が閉会後は無用の長物になったことを避けるため、ロンドンは既成の競技場の活用や、未開発地域に会場を建設することによって、閉幕後も引き続き利用できるようにしました。
その結果、2013年のイギリスの実質GDP成長率は2.0%、14年は2.9%と緩やかながらも堅実に成長しています。以下資料を参考下さい。
【過去の夏季五輪開催国の実質GDP成長率】
出典:(資料)IMF、各国・地域統計などより、みずほ総合研究所作成
1992年のバルセロナ以降、金融危機など外的要因を除き、どの国も、少しずつですが成長を維持しています。夏季五輪開催後にGDPがマイナス成長となっていくケースは少ないといえるでしょう。
今回の東京オリンピックもロンドンと同じく、新幹線などの大きなインフラは行ってりません。既存施設の活用や閉会式後の新規施設の有効活用を考えており、これらと同じような成長率で推移することが考えられます。
むしろ製造業、飲食、宿泊関連などは、オリンピック後も継続して好調だと予想されています。これはインバウンドとの関連が大きく、アジア新興国の中所得者層が近年拡大していること、政府主導で外人観光客の受け入れを推進していることなどが理由です。
オリンピックで日本のよさを知った外国人が、リピーターとして再び日本を訪れることが期待されます。
最後にオリンピック後の電気業界の動向についても考えてみたいと思います。
結論からいうと、電気業界は安定して成長を続けることになりそうです。オリンピック後の需要について国土交通省の予測では、2022年度の建設投資は、現在より少し増える水準としています。将来的に工事量が半分に減ってしまう、などといったことはまずないでしょう。
また建設工事の現場だけでなく、電気工事士が活躍できる現場は数多く存在します。
これらはオリンピックの影響を受けることなく受注される仕事です。
・メーカー工場の設備保守部門
・鉄道会社の電気工事
・防犯設備の設置や点検など
・情報通信系の工事
・ビル設備の設置やメンテナンス
ほかにもテーマパークのアトラクション機材の保守・点検、飲食チェーンの機械設備の保守・点検などがあります。
今回の東京オリンピックで一気に開花しそうな勢いのあるAIやさまざまなハイテク技術も、けっきょくは電気を使って作動させるものばかり。これらのオリンピック後の保守・点検など、電気工事士が関わる仕事は今後も増加することが予想されます。
電気業界はまだまだ人材不足です。したがって電気業界に限っていえば、オリンピック後の仕事量を不安視することより、むしろ人材確保のための給与と働く環境の改善、新人育成の教育制度などについて考えていく必要がありそうです。