蓄電池特集

電気自動車へと世界的に大きく舵が切られ、国内はFIT終了後の自家消費を控え、蓄電池に注目が集まっている。一方、我が国は再生可能エネルギーを主力電源とした「エネルギー基本計画」を策定。「低炭素化」と「エネルギーセキュリティの強化」に注力することになったが、この課題克服のためにも、蓄電池設備の需要が高まっている。こうしたなか、蓄電池メーカーは相次いで生産計画を上方修正し、国内の創・蓄連携システムや車載蓄電池の需要に期待を寄せる。蓄電池の現状や今後などを探ってみた。

◇再エネの主力電源化
政府はこのほど、「第5次エネルギー基本計画」を閣議決定し、日本の中長期的なエネルギー計画を方向付けた。
それによると、今回示された30年までの電源構成比率は、再生可能エネルギー(再エネ)が22〜24%と第4次の比率を堅持し、主力電源として明確な位置づけがなされた。この狙いは、我が国における「脱炭素化」とエネルギー選択の多様性、すなわち、「エネルギーセキュリティの強化」の2点に絞られている。これについては後述する。
再エネが主力電源として前面に出たのは、原子力発電への依存度を低減する裏返しであるともいえる。今後は、再エネのための低コスト化、不安定な太陽光発電などの出力をカバーするための「調整力」の確保に取り組むことになる。その際、必要不可欠な設備として威力を発揮するのが定置用蓄電設備である。電気自動車(EV)が近い将来の主流となる中で、車載用蓄電池とともに社会インフラとしても需要の増大が期待できる蓄電池の動きは活発化している。

◇右肩上がりの市場
ところで蓄電池の市場規模は、現状どうなのか。調査会社の富士経済によると、再生可能エネルギーの導入拡大や自家消費モデルの進展により、2030年のグローバル市場規模は、17年比6・6倍の1兆2585億円まで拡大すると予測した(グラフA)。


この調査でも、再エネの電力系統の運用における調整力や再エネの出力変動対策用途、ピークカット、ピークシフト用途など、活用シーンが広がってきたと指摘している。
製品別では、住宅用蓄電システム向け2次電池は、家庭向け電気料金の高騰、FIT価格の下落、補助制度の整備もあり太陽光発電の自家消費用途で、サイクル性能に優れたリチウムイオン電池の採用が進んでいる。17年実績は鉛電池203億円、リチウムイオン電池413億円。今後も自家消費トレンドの拡大を背景に、市場は拡大し、30年にはリチウムイオン電池は2453億円に拡大するとみている。
東日本大震災後の日本は、16年に住宅用蓄電システムの購入補助制度を廃止し需要が低迷した。17年はシステムメーカーが効率的な販売ノウハウを構築したことなどで市場が活性化。19年以降はFITによる太陽光の余剰電力の買い取り期間が満了となる家庭が登場し始めることから、自家消費トレンドの進展、仮想発電所(VPP)用電源としての採用が増加し、市場拡大が期待される。
一方、非住宅用電力貯蔵システム向け2次電池は、日本では、東日本大震災を契機に学校、体育館、公民館など避難所になりやすい公共施設に対して、BCP用途で太陽光発電システムと蓄電システムの導入を促す補助制度「グリーンニューディール基金」が12年度から創設され拡大した。しかし、16年度末に制度が実質的に終了したことで17年に市場は大幅に縮小し、当面は横ばいが予想される。一方、産業施設向けでは太陽光発電と連携させたピークカット、ピークシフトや瞬低対策、省エネ、非常用電源などさまざまな用途を組み合わせた提案が増加しており、今後市場をけん引する用途として期待される—と報告している。
経済産業省機械統計資料・2次電池販売数量推移(表Ⅰ)を見ても、リチウムイオン電池は2013年の8億4462万2千個を底に販売数量は上昇。


17年には13憶2050万2千個と11年を上回る数字を示しており、緩やかな上昇カーブを描いている(グラフⅠ)。


同じく、2次電池販売金額推移(表Ⅱ)をみても、やはり13年(2793憶6400万円)の落ち込みを別にして、緩やかな上昇カーブを示している(グラフⅡ)。

◇「低炭素化」と「エネルギーセキュリティの強化」
さて、その「低炭素化」だが、国立研究開発法人国立環境研究所が公開した「日本国温室効果ガスインベントリ報告書 2017年提出版」で次のように述べている。
それによると、15年のCO2総排出量は13億2500万㌧。世界第5位に入る排出量で、その4割近くがエネルギー転換部門から排出されている。日本では原子力発電からの脱却が進み現状、電力の8割を火力発電に依存。再エネの導入・普及に伴って、CO2の排出量は13年から減少傾向だが、東日本大震災発生以降の10年と比較し、CO2排出量が1億㌧も増加している。
一方、10年には19.9%だったエネルギー自給率が14年には6.0%にまで低下した。火力発電用途の天然ガスなどを輸入に頼らざるを得ないから。海外でのトラブルで輸入がストップした場合には、国内のエネルギー需要を賄うことができず、混乱を招くこととなる—としている。これが「エネルギーセキュリティの強化」の所以である。
膨大なCO2排出量、低いエネルギー自給率、高コスト—が日本のエネルギー事情が抱える大きな問題で、これらを解消するためにも「低炭素化」と「エネルギーセキュリティの強化」は避けて通れない。

◇旺盛な蓄電池需要
繰り返しになるが、「低炭素化」とは温室効果ガスの排出を極力抑えることであり、「エネルギーセキュリティの強化」とは他国に依存しないエネルギー環境の構築である。二つの目的を達成するためには、原発に代わる再エネを主要電源化するしかないわけである。また、効率よく利用するためには蓄電池が必要不可欠の設備となる。
加えて、EVが世界的なトレンドとなる中で、車載用蓄電池の需要も増している。こうした旺盛な需用予測を背景に国内蓄電池メーカーは強気な見通しを立てている。
パナソニックは2021年度には電池事業の売上げ計画を、17年度実績5625億円の約2倍、1兆円超に引き上げた。EV用が中心となるが、中国のリチウムイオン蓄電池工場の増産に加えて姫路工場でも蓄電池生産を始める。
東芝は、来年3月に家庭用蓄電システムから撤退するが、産業用蓄電システムに力点を置く。EV向けの需要を中心に生産能力を現在の約5割増しにし、国内工場に約50億円の投資を行うという。将来的にはインドでの生産も視野に入れている。
自動車メーカーも相次いで蓄電池開発に乗り出す。トヨタ自動車は18年から30年までに1兆5千億円の投資を行うと発表した。また、ホンダは米国・ゼネラルモーターズ(GM)と共同でEV向け蓄電池を開発する。開発した蓄電池はGMが生産し、ホンダに供給するという。さらには中国の新エネルギー車最大手である比亜迪(BYD)がリチウムイオン電池の新工場を建設すると発表した。

◇克服すべき課題
いずれも、車載用蓄電池の旺盛な需要を見込んだものである。一方、国内においては先述したように、電力の売電から自家消費という“19年問題”も控えている。これは、太陽光発電の電力買い取り期間が19年年に終了し、その住宅は40〜50万軒にのぼるとみられている。それ以降も年間で15〜30万軒の住宅で買い取り期間が終了する。買い取り期間を終了した住宅では、売電から自家消費にシフトするニーズが高まると予想され、この際、効率面からも蓄電池需要が活発化するとみられている。加えて、2020年までに新築住宅でのZEH化50%を実現する政府主導施策も需要の後押しをしている。
ただ、問題は蓄電池の高価格と補助金の廃止である。高価格という点については徐々に解消されつつある。米国・テスラ社による蓄電池価格破壊はインパクトを与えた。現在の価格は、7年前と比較して約半分の18〜25万円/kwで、2年後には9〜10万円/kw程度と予測する向きもある。
一方、蓄電池単体での補助金は廃止されたが、ZEH関連補助金や各都道府県・市区町村で多額の補助金が設定されている。さらには、VPP、ネガワット取引(節電量に応じた報酬制度)、電気自動車と連携するⅤ2Hなど蓄電池の活用法は多様化しており、補助金政策以上のメリットを享受できるといえよう。

◇時宜に適した提案
また、蓄電池にAIを搭載し、天候や各家庭の時間帯ごとの利用方法を分析し、太陽光発電を一層有効活用することで電気料金の削減につながるなどの技術開発もできているという。
こうした動きを背景に電材業界は今後、創・蓄・省エネが連携したシステム構築といったような蓄電池需要のトレンドを見極めながら、時宜に適したスマートエネルギーソリューションの提案営業が一層求められると思われる。いまこそ、工・製・販三者が一体となった業界の強みを発揮すべき時ではないだろうか。