LED照明特集


全世界が新型コロナウイルスの感染症拡大で揺れる2020年だが、照明業界でも「2020年問題」で大きく環境が変わろうとしている。その端緒となっているのが水銀汚染防止とリニューアル・セカンドリプレイス需要といわれている。大手照明メーカーも「水銀に関する水俣条約」の発効に伴い蛍光灯器具や水銀ランプの生産を2020年に相次いで終了するのと並行して、買い替え需要に向けた商品投入が活発化している。


ストック100%へ

LED化率が約34%に達したといわれるストック市場。残る照明器具は約10億台あるともいわれている。その既存照明器具が2020年度末で50%LED照明に代われば、消費電力量の削減効果は13年度比で約20%の削減。30年度末で100%達成時には同じく13年度比で半減すると試算されている。これが、LED照明が省エネの優等生といわれる所以である。

背景には、政府の掲げる地球温暖化ガス排出量26%削減(13年度比)目標があり、省エネという観点からもLED照明への代替は待ったなしの状況。省エネを推進する政府は、新成長戦略やエネルギー基本計画でLEDなどの次世代照明の導入を積極的に呼びかけている。その戦略とは、2020年までにLEDをはじめとする次世代照明をフロー(出荷)で100%達成し、その後2030年までにストック(設置)100%達成を目指そうというものである。
世に出て10年以上が経過したLED照明はこうした目標に対して、後に照明市場動向で触れるが、現状、出荷数量で限りなく100%に近付いており、目標とするフローで100%達成はほぼ完了したといえる。新設住宅着工戸数もこの3、4年は連続して対前年比を割り込んでおり、人口減少等で今後も漸減傾向は続くとみられている(グラフⅠ参照)。そのため、既設照明からLED照明へ、また、LEDからLEDといったセカンドリプレイスを次の市場と捉え、各照明メーカーはすでに軸足を移している。ストック100%達成という次の目標に向かって照明市場のステージは大きく変わっている。

照明市場の現状

照明メーカー各社の動きを見る前に、世に出て10年以上が経過したLED照明の現状を、日本照明工業会や調査会社の資料から探ってみたい。
日本照明工業会(平岡敏行会長、JLMA)の自主統計表からみると…。18年度の照明器具類全体の出荷実績は数量で前年度比98.7%(7068万1千台)と減じたものの、金額では同102.5%(7769億5200万円)となり、自主統計を取り始めてから初めて出荷金額で7千億円を超えた15年度以来、金額では順調に右肩上がりを続けている(表Ⅰ、グラフⅡ、Ⅲを参照)。
出荷金額で若干の伸びを示した照明市場ではあったが、数量では1.3%減とここにきて器具全体の伸びが停滞もしくは減少傾向を見せた。各前年度比の折れ線グラフから見て取れるように14年度から18年度まで横ばいもしくは若干の減少となっている。何度も触れるが、これはとりもなおさず、照明器具の出荷数に占めるLEDの割合が現実、限りなく100%に近付いている証左(自主統計ではLED化率97.5%)といえよう。政府目標である「LED・有機EL照明の普及率を20年にフローで100%の達成」は完了した、逆に言えばフローでの需要はこれ以上望めないといってもよい。
富士経済が発表した「次世代光源の市場調査」でも次のような厳しい見方をしている。
照明製品の国内市場は緩やかに縮小しており、2018年は前年比1.9%減の8205億円が見込まれる。
LED照明(LED照明器具とLED管球ランプ)は伸びており、18年は全体の80%以上の6868億円が見込まれる。オフィス・ビルや店舗、施設で使用されるLED光源一体型ベースライト、工場や倉庫、体育館で使用されるLED高天井照明、住宅照明のLEDシーリングライトが中心である。LED光源一体型ベースライトはLED直管ランプのリプレイス需要を取り込んでおり、今後も安定した需要が期待される。LED高天井用照明は、水銀条約に伴う水銀ランプの規制を背景に伸びるとみられる。LEDシーリングライトは市場が成熟しつつあるが、高機能・多機能化やホームIoTの流れで製品開発が進んでおり、照明の新たな価値(ウェルネス、見守り、演出・エンタメ性など)を提案する製品として期待される。
照明製品の国内市場は、LED照明の低価格化の進行や製品リプレイスサイクルの長期化などを要因とし、今後も緩やかに縮小し25年には17年比19・6%減の6729億円が予測される。
LED照明はストック市場からの置き換えにより当面は伸びるものの価格下落のため2020年以降は縮小が予想される—とみている。
矢野経済研究所も、2019年の国内のLED照明市場規模(メーカー出荷金額ベース)は前年比2.9%増の8752億円であったものが、2023年の同市場は18年比3.3%減の約8200億円と厳しい予測を「照明市場に関する調査」で行っている。これは、LED照明のコモディティー化による価格競争の激化によって、販売数量は増加しても売上金額が伸び悩むと見ているから。短期的なマイナス要因では、19年10月に実施された消費増税後の新築住宅市場への影響と、1年延期となった東京オリンピック・パラリンピック関連施設の建設需要のピークアウトをあげている。
ただ、LED照明のリプレイス需要やストック市場におけるLED照明器具へのシフトといったプラス要因もあげており、中期的には需要の急減は避けられるとしている。
調査会社はいずれも、ストック需要やリプレイス需要が市場を牽引し中期的には伸長するとみているものの、長期的には照明市場全体がシュリンクしていくと予測した。
これについてJLMAの平岡会長は、「18年度下期の国内LED照明器具出荷台数が、過去17年間で初めて対前年度比を割り、明らかに成長の鈍化がみられる。今後、人口減少、新設住宅着工件数の減少に伴い、新設物件での照明器具の出荷数量は減少が予想される」と19年度事業方針の中で述べており、先行きが大いに危惧されるところだ。

メーカー各社の動き

長期的には厳しい状況を迎えるとみられる照明市場だが、照明の新たな価値としてウェルネス分野や通信、産業分野への進出、エンタメ性などへの応用が今後、期待されている。こうした分野とLED照明については次の機会に触れるとして、当面は、ストック100%達成という目標に向けてメーカー各社は動いている。
なかでも昨今は、新型コロナウイルス問題による経済停滞とともに、冒頭に触れたように、「水銀に関する水俣条約」の発効を機に照明市場が大きく変化している。2021年以降は水銀添加製品の製造や輸出入ができないことから、工場や倉庫などで使われている高圧水銀ランプをメタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプ、LED照明などへの切替えが進められている。水銀を使用する、いわゆる「水銀使用製品」は蛍光ランプ、低圧放電ランプ及びHIDランプ等が該当するが、これら製品はすべてその規制を受けているわけではない。ただし省エネ性という観点からLED照明への代替は加速化している。

パナソニックは、「2020年6月末で水銀ランプ31品番を生産終了する」と発表。今後は、水銀ランプの代替となるLED照明器具のラインアップを強化し、省エネ性が高く、長寿命で即時点灯するLED照明への入れ替えの提案を強化している。
また、これより以前には東芝ライテックが「2020年3月末で水銀灯32品番、メタルハライドランプ20品番、高圧ナトリウムランプ29品番」を販売終了している。同社は水銀灯だけでなく、水俣条約規制対象外のメタルハライドランプ・高圧ナトリウムランプの販売終了をも含めており、省エネ効果が高いLED照明への入れ替えがこの2社に限らず進んでいる。
もちろんこうした事案より前には、蛍光灯器具の生産を東芝ライテック(17年3月に終了)、NECライティング(18年3月に終了)、パナソニック(19年3月末に終了)、岩崎電気(18年9月に終了)など、各メーカーが終了を打ち出している。また、蛍光ランプの生産終了も同様に、東芝ライテックが18年6月末に(一部製品)、三菱電機照明が19年3月末にとそれぞれ発表している。
こうした動きによって、蛍光灯自体の生産本数も年々減少。経済産業省機械統計データによると、この2017年までの5年間で約3割減少しているという。
電材流通新聞社の照明専業メーカー座談会でも、出席した首脳から2020年が新たなステージのスタートと見ている。
大光電機の山本善教副社長(当時)は「LED照明が導入されて10年が経過した。それまでを創世紀とすれば、2020年から25年にかけて店舗・商業施設でLED照明の取り換え時期に入る第2世代に突入する。リニューアルは進むが、住宅は単価が低く厳しいのでは」と予測する。
遠藤照明の遠藤良三会長は「セカンドリプレイスが始まっており、一つの注目点となる。少子高齢化などで新規需要は減るが、ストックマーケットはたくさんある。トータルでは安定的な需要がある」と見る。
コイズミ照明の村典之管理本部長は「セカンドリプレイスへの対応は、さらに価値の高いLED照明を提供することが重要。最初はとりあえずLED照明を使ってみることだったが、これからはそういう時代ではない」と付加価値の高い照明器具の提供をあげる。
全国照明器具協同組合連合会の梅田照幸会長(当時)は「倉庫用は減っているが、水銀灯の廃止などの影響で高ワットタイプの倉庫用器具が急激に伸びている。ただ、住宅におけるストック需要は長期戦が必要。何十年か先を見据えた事業展開が求められる」と経営体質の改善を訴えた。

リニューアルの支援

何度もいうが長期的には厳しい状況を迎える照明市場だが、照明関連団体も側面からの支援を積極的に行っている。
JLMAは、「CSL&HCL(Connected Smart Lighting & Human Centric Lighting:様々なモノ、コトにつながるインテリジェントなあかりと人にやさしい、安全・快適・便利なあかり)」をキーワードに、2030年までに、照明器具ストック市場でSSL化率100%の達成を目指そうという照明成長戦略「Lighting Vision 2030〜あかり文化の向上と地球環境への貢献〜」を打ち出した。
「あかりに無関心だとチコちゃんに叱られる」キャンペーンを展開しLED照明の代替メリットを訴えているほか、「LED照明にカエルドキ」をフレーズに照明器具のリニューアルを訴えている。
「チコちゃんに叱られる」キャンペーンとは、LED照明の安全な使い方を「家庭編」「お店編」「事業所編」に分けてわかりやすく解説。同時にクイズに答えて景品が当たるというもの(第2弾は5月末で終了)。
また、リニューアルキャンペーンでは、「照明器具をリニューアルすれば、省エネも、安全も、快適も解決です。おすすめします、照明器具のエコチェンジ」をコンセプトに、「器具は10年たてば赤信号」といった“安全性”に加え、“省エネ性アップ”“快適性アップ”を謳っている。さらに、安全、省エネ、環境の観点から照明器具のリニューアルを総合的に紹介するパンフレット「照明器具リニューアルのおすすめ(照明器具カエルBOOK2020)」も発刊した。

今後の展開

ターゲットとなる大きな市場は中期的には、ストック需要に向かって大きく舵が切られることになるが、その中にはセカンドリプレイス(買い替え需要)の取り込みも活発化するとみられる。ただ、住宅用や非住宅用など各分野のニーズはより複雑化しており、一層ユーザーニーズに沿ったきめ細かい、付加価値の高い照明器具の開発が求められている。また、長期的には人口減少とともに新設住宅着工件数の減少とあいまって厳しい照明市場が待ち構えており、何十年か先を見据えた事業展開が求められるとみられている。このため、一層、製・販・工の連携が重視されるのではないだろうか。

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