菅原道真のたたり
菅原道真 画像引用元:太宰府天満宮
6月26日は雷記念日である。知らなかったのである。“雷のシーズン”としてはやや早い気もするが、今から千年以上前の延長8(930)年のこの日、平安京の清涼殿に落雷があり、大納言の藤原清貫をはじめ何人もが死傷したことにちなんでいる。当時、この“清涼殿落雷事件”は菅原道真のたたりだと噂され、京の人々を震え上がらせた。
菅原道真公といえば「天神さま」とあがめ奉られる学問の神様であり、平安時代は学者・文人・政治家として活躍した人物。醍醐天皇のときに55歳で右大臣の要職に就くのだが、無実の罪を着せられて九州の大宰府に左遷となり、不遇のうちにその生涯を閉じた。すると道真の死後、疫病の流行や干ばつによる飢饉、そして宮中への落雷など、京都で災いが相次いだのだ。雷に打たれて命を落とした藤原清貫は道真の追放に加担した一人であり、他にも関係者が次々と急死。ついには醍醐天皇までが崩御した。当時の人々ならずとも、無念の死を遂げた道真の怨霊を恐れずにはいられない出来事だ。
さて、ここで突然ですがクイズです。何かの災難に見舞われそうな人が思わず口にする言葉は何でしょう?
最近の若い人は知らないかもしれないが、答えは「くわばら、くわばら」。
道真の怨霊は京の都に何度も雷を落としたのだが、自分の領地である桑原にだけは、ただの一度も落とさなかったという。つまり「くわばら、くわばら」は元々、魔除けならぬ雷除けの呪文、おまじないなのだ。
雷の正体は電気
暗雲が垂れ込め、地鳴りのような不気味な音が響いたかと思えば、閃光と轟音すさまじく、稲妻が空を切り裂く――。まさに天が怒っているような雷の正体は、もちろん怨霊ではなく電気だ。積乱雲の中にたまった電気が雲の中や、雲と地面との間を流れる放電現象である。
夏の青空にモコモコと立ち上がるあの巨大な入道雲も積乱雲だ。その広がりは数kmから十数km、高さは成層圏まで達することもあるという。積乱雲が発達すると、強い上昇気流によって雲の中の小さな氷の粒がぶつかり合い、プラスとマイナスの電気が発生するのだ。といっても素人にはよく分からないのだが、とにかく、雲から放たれた電気が空気の中を強引に通って摩擦を起こし、瞬間的に約3万℃の高温となって光を発する。3万℃というと、太陽の表面温度の約5倍だ。天地にとどろく雷鳴は、空気が震えることで起こっている。雷が光った後に音がするのは、光は約30万km/秒で、音は約340m/秒と、進む速度に違いがあるため。従って、雷が光った3秒後に雷鳴が聞こえたら、340m×3=1020m先に雷雲があると考えられる。しかし、油断は禁物。雷雲は時速5~40kmで移動する。
雷でバック・トゥ・ザ・フューチャー!?
雷の電流は数千アンペアから20万アンペア、電圧は数千万ボルトから数億ボルト、ときには10億ボルトに達するといわれている。家庭用の電圧が100ボルトだから、なんと1000万倍だ。高圧電線でも7000ボルトなので、まさにケタ外れのエネルギーといえる。
1985年のアメリカ映画『Back to the Future』では、過去にタイムスリップしてしまった主人公のマーティを未来に帰そうと、ドクことエメット・ブラウン博士がクルマ型のタイムマシン「デロリアン」に落雷を利用して電力を供給した。現実的には、さすがに時空旅行は難しいだろうが、「ナショナルジオグラフィック日本版サイト」によると、1回の落雷で平均的な乗用車が290~1450km走れるエネルギーが生まれるという。
映画のように、雷の巨大なパワーを実用化できないものかとは誰しも考えることで、古今東西さまざまな研究や実験も行われてきたようだが、実現には至っていない。それは、デンキウナギ発電ができないのと同じで、エネルギーの放出があまりに瞬間的であるため、蓄電や活用が難しいのだそう。雷の放電時間はおよそ10万分の1秒、長くても1万分の1秒らしい。一瞬にも満たないのだ。
地球で1秒間に100回
地球全体の落雷数は、1秒間に50回とも100回ともいわれている。100回とすれば、1日に864万回だ。
日本では夏のイメージが強い雷だが、それは主に太平洋側のことであり、日本海側ではむしろ冬に落雷が起こる。つまり、四季を問わず雷は発生する。気象庁によると、1981年から2010年までの30年間の平均値で「雷日数」が最も多いのは金沢の42.4日、最も少ないのは札幌で8.8日、ちなみに大阪は16.2日、東京は12.9日となっている。
世界に目を向けると、雷で有名なのは南米ベネズエラ。マラカイボ湖に流れ込むカタトゥンボ川の河口付近では、1年間に200回以上も雷が発生するのだ。
さて、ここで突然ですがクイズです。この地域で1時間に走る稲妻の数は何本でしょう?
答えは、なんと3600本。ギネス世界記録にも認定されているそうだ。
雷から身を守るワンポイント
雷は、雷雲の位置次第で海、山、平野、町など、どこにでも落ちる。屋外ではグラウンドやゴルフ場、プール、砂浜や堤防、海上や山頂などの開けた場所にいると人に落ちやすくなるため、雷雲が近い、近づいていると感じたら、迅速に安全な場所へ避難しなければならない。安全な場所とは、例えば鉄筋コンクリートの建物や自動車(オープンカーは不可)・バス・列車の内部は比較的安全だ。木造の建物の内部も基本的に安全だが、すべての電気器具および天井・壁から1m以上離れればさらに安全といえる。(参考:気象庁ホームページ)
雷記念日の由来となった“清涼殿落雷事件”は決して特別なケースではなく、雷による被害は毎年発生している。十分に注意が必要だ。