脱炭素社会に向けた住宅・建築物に おける省エネ対策等のあり方・進め方 =2=

Ⅱ、エネルギー転換部門
■再生可能エネルギー・未利用エネルギーの利用拡大に向けた住宅・建築物分野における取組み

2050年カーボンニュートラル実現に向けては、使用するエネルギーを脱炭素化するとともに、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である。

①太陽光発電の活用
2050年カーボンニュートラルの実現に向けては再生可能エネルギーの活用が重要な要素であり、太陽光発電の拡大も期待されるところ、一定の建築物への再生可能エネルギーの導入を義務付けている地方自治体もある。検討会において、太陽光発電設備の設置については、その設置義務化に対する課題の指摘もあったが、導入拡大の必要性については共通の認識であった。特に2030年までにおいては、太陽光発電は現実的に利用できる再生可能エネルギーとしての期待が高い。

このため、2050年において設置が合理的な住宅・建築物には太陽光発電設備が設置されていることが一般的となることを目指し、また、これに至る2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指すこととして、将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取組みを進める。

国や地方自治体をはじめとする公的機関が建築主となる住宅・建築物について、新築における太陽光発電設備の設置を標準化するとともに、既存ストックや公有地等において可能な限りの太陽光発電設備の設置を推進するなど、率先して取組む。こうした取組みを通じて導入ポテンシャルの把握をすすめるとともに、太陽光発電設備の設置に係る課題の洗い出しと検討を進める。

関係省庁、関係業界が連携し、各主体が設置の適否を検討・判断できるよう、適切な情報発信・周知を行う。

電気料金や固定価格買取制度、自家消費率を高める等のための蓄電池の活用、太陽光パネルに関する技術開発の動向など、太陽光発電を取り巻く周辺環境・条件の将来見通しについて随時、情報の更新を行いながら、わかりやすく情報提供を行う。

太陽光発電設備の設置、維持管理、廃棄まで含めたそのライフサイクルに係る一般的なコストやその水準、導入に向けた支援制度等についても適切な情報提供を行う。

京都府、京都市などが本年4月から行っている再生可能エネルギー利用設備を設置することによる環境負荷低減に関する情報の説明義務の実施状況も参考とし、本年4月から施行されている戸建住宅等の設計業務を受託した際に義務付けられている説明とあわせて太陽光発電設備の導入に関する情報提供の取組みを進めつつ、情報がより確実に伝達される仕組みを構築する。

民間の住宅・建築物については、太陽光発電設備の設置を促進するため、次に掲げる取組みを行う。

ZEH・ZEB、LCCM住宅等の普及拡大に向け、引き続き多雪地域等の条件が不利な場合について配慮しつつ、支援措置を継続・充実する。

特にZEH等の住宅については、個人負担軽減の観点から、補助制度に加えて融資や税制においてもその支援措置を講じる。

低炭素建築物の認定基準について、省エネ性能の引上げとあわせ太陽光発電設備等再生可能エネルギー導入設備を設置したZEH・ZEBを要件化する。

消費者や事業主が安心できるPPAモデルの定着に向け、先進事例の創出、事例の横展開に取組むとともに、わかりやすい情報提供に取組む。

太陽光発電設備の後載せやメンテナンス・交換に対する新築時からの備えのあり方を検討するとともに、その検討結果について周知普及する。

国・地方脱炭素実現会議で策定された地域脱炭素ロードマップを踏まえ、脱炭素への移行を先行的に進める脱炭素先行地域づくり等に支援を行い、都市が再生可能エネルギーの生産地となるような取組みを含め、モデル地域を実現する。そうした取組みの状況も踏まえ、住宅・建築物への太陽光発電の設置拡大に向け、地域・立地条件の差異等を勘案しつつ、制度的な対応のあり方も含め必要な対応を検討する。

太陽光発電設備の軽量化・発電効率の向上等の技術開発の促進、新技術の活用に必要な規格等の整備を進め、太陽光発電設備及び蓄電池の一層の低コスト化を進め、その導入促進と自家消費率の向上を図る。

こうした取組みを行い、2030年を見据え、住宅・建築物への太陽光発電の更なる設置拡大に向けた土壌作りを進める。

 ②その他の再生可能エネルギー・未利用エネルギーの活用や面的な取組み
現在、我が国の家庭における用途別エネルギー消費量としては給湯によるものが最も多く約3分の1を占めている、また、病院やホテルなどの建築物においても給湯負荷の大きな用途もあることから、更なるエネルギー消費量の削減に向け、給湯一次エネルギー消費量の低減が期待される太陽熱利用設備等の利用拡大についても検討する。

住宅等における薪ストーブやペレットストーブによるバイオマスの活用に向け、その暖房能力を評価するための規格化を関係者において進める。

太陽光発電やバイオマス等の再生可能エネルギーや未利用エネルギーの導入については、エネルギーの効率的な利用や導入コストの負担軽減といった観点から、複数棟の住宅・建築物による電気・熱エネルギーの面的な利用・融通等の取組みの促進についても検討する。

再生可能エネルギーの導入拡大を進めるとともに、変動型再生可能エネルギーの増加に伴い、需要サイドにおいても、系統の安定維持等のレジリエンス強化に貢献する対策を講ずる。

Ⅲ、吸収源対策
■炭素貯蔵効果の高い木材の利用拡大に向けた住宅・建築物における取組み
第204回通常国会においては、「伐って、使って、植える」という森林資源の循環利用を進めることにより2050年カーボンニュートラルの実現に貢献するため、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、題名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に見直されるとともに、木材の利用の促進に取組む対象が、公共建築物等から民間建築物を含む建築物一般に拡大されたところである。

こうしたことも踏まえ、吸収源対策としての木材利用の拡大に向けて、住宅・建築物の木造化・木質化の取組みを進める。

木造建築物等に関する建築基準の更なる合理化を進める。
国や地方自治体が建築する公共建築物において、率先して木造化・木質化に取組む。
民間建築物において木材利用が進んでいない非住宅建築物や中高層住宅における木造化を推進するため、その支援を行う。

地域における、省エネ性能の高い木造住宅等の整備に対する支援を行うとともに、地域における木材の安定的な確保の実現に向けた体制整備を推進するため、地方自治体とも連携して、その支援を行う。
建設時の炭素排出量において地域材等の利用効果を評価可能という観点からも、LCCM住宅・建築物の普及拡大に向けた取組みを進める。

結び

カーボンニュートラルを実現するのは、産業革命前からの世界の平均温度上昇を2℃より十分低く抑え、加えて1・5℃未満に制限する努力を追求するというパリ協定の目標の実現に貢献するためでもある。地球温暖化を防ぐためには、我々はこの高い目標に向かって進んで行く必要がある。その起源となった産業革命とは、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった石炭利用によるエネルギー革命である。それにともない社会構造が大きく変革した。工場制機械工業の成立、蒸気船・鉄道による交通革命、近代住宅・建築・都市の出現、一人あたりのGDP増加、世界人口の増加など現代社会そのものと言っても過言ではない。住宅・建築物においても格段に利便性や快適性などが向上した。この利便性や快適性を維持しながら社会構造の変革を行うためには大きな努力が必要になる。

2019年の我が国の業務その他部門の二酸化炭素排出量は消費ベースで日本全体の17・4%、家庭部門は14・4%を占める。これに加えて新築・改修時の設計、資材・機器製造、建設に伴う排出量は約9%になるといわれており、これを加えると40%を越える。住宅・建築物分野の取組みは非常に重要になる。また、運用時のエネルギー消費量だけではなく、吸収源対策で述べている木造化・木質化に加えてライフサイクルを通じた取組みが必要となる。

とりまとめは、2050年カーボンニュートラルの実現及びこれと整合的な2030年度46%削減という野心的な目標の実現に向けて、住宅・建築物について、2050年の姿、2030年の姿(あり方)を見据えた上で、2030年に向けた省エネ対策や再エネ導入拡大の実行計画(進め方)を示したものである。これらには国民や関係事業者等に対する新たな義務付け等の規制的措置を含むものとなっているため、その実行は決して容易なものではないが、とりまとめ内容を着実に実行していかなければならない。一方で急激な変革は大きな痛みを伴う。検討会のカーボンニュートラルに向けた思いは一致していたが、消費者や関係事業者等への影響をどのように考えるかという点において実行計画(進め方)に関しては意見の相違が見られた。その時に、国連が定めた持続可能な開発目標SDGsの根底にある「誰ひとり取り残さない」という点を再認識する必要がある。カーボンニュートラルに向けたトランジションを国民にとってどのように痛みの少ないものにしていくかを考えて行く必要がある。我が国は歴史的にも変革に対する寛容性や柔軟性を持ってきたはずである。

とりまとめでは、関係各主体が共通の認識をもって取組みを進められるよう、主に規制強化を中心とする対策のスケジュールに加えて、関連する支援制度や技術開発・普及、取組みを実施するための技術者等の育成等の取組みなども含めたロードマップも示されているので、関係事業者等においても、この内容を前提として、さらに一層の高みを目指した積極的な取組みが展開されることを期待する。

その上で2050年に向けては、住宅・建築物分野における省エネ対策の徹底と再エネ導入拡大の取組みを継続的に高めていくことが不可欠であることから、取組みの進捗や技術開発の進展等を踏まえ、その目標や取組み内容について継続的に見直しを加えていく必要がある。その際、特に住宅や小規模建築物は生活等の基盤であることから、対策強化に伴う国民の負担に配慮しつつ、「誰ひとり取り残さない」という視点からも更なる高みを目指すべきである。

今後、太陽光発電、風力発電等の変動型再生可能エネルギーの増加による供給構造の変化、AI・IoT等のデジタル化進展による技術の変化、電力システム改革等による制度の変化等により、エネルギー需給構造が大きく変化することが予測される。需要サイドの再生可能エネルギーの導入拡大だけではなく、こうした状況変化や供給サイドの脱炭素化を踏まえた、系統の安定維持等のレジリエンス強化に貢献する対策などの備えや対応を検討していくことが求められてくる。

国土交通省、経済産業省、環境省においては、2050年までにカーボンニュートラルが実現できれば良いという考えを持たず、可能な限り早期にビジョン(あり方)が実現できるように継続的に努力することを求める。