2025年市場は2018年比 85.6%増の245億円予測
個室ブースのニーズも急増
河村電器産業・RusuPo(昨年4月・ジャンボびっくり見本市)
日東工業・プライベートボックス試作品(2019年8月・プライベートショー)
宅配ボックスの需要は、コロナ禍の影響によりますます高まっている。それとともに、ニューノーマルな働き方を実現するための個室ブースのニーズも急速に高まっている。電材メーカーにおいても、以前より発売していたボックス関連製品のラインアップ強化に努めている。
物流系ITスタートアップのYperは昨年10月、「コロナ前後での賃貸物件宅配ボックス設置率比較」を公表した。東京23区の宅配ボックス付き賃貸物件をCHINTAIネットで検索した昨年9月時点の情報に基づいて「宅配ボックスの設置率」を算出し、前回調査(2018年8月時点)と比較した。
宅配ボックス物件検索数については、約2倍となってコロナ前後で賃貸物件宅配ボックス設置率は全体的に増加傾向にある。とくに、家賃10万円以上の物件で増加し、コロナ禍で竣工した築3年以内の物件でコロナ前と比較して宅配ボックスの設置率が大きく増加した。
築1年以内の物件の宅配ボックス設置率は、前回が71.69%だったのに対し、今回は一昨年9月以降竣工した築1年以内(一昨年10月〜昨年9月)の物件での宅配ボックス設置率が87.64%、築年数3年以内でも84.31%と大きく伸びており、コロナ禍で竣工した物件のほとんどに宅配ボックスが設置されていることがわかった。築20年以上の物件においても、宅配ボックス設置率の増加傾向がみられる。
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富士経済は、一昨年1月に公表した「次世代物流システム・サービス市場調査」のなかで、宅配ボックスの国内市場についてつぎのように予測していた。コロナ禍前の調査ではあるが、現状と符合する点も少なくないようにも思われる。
【宅配ボックスの国内市場】
戸建住宅向けは、戸建住宅に設置される製品を対象とする。集合住宅向けは、分譲マンションや賃貸アパート向け、駅や商業施設に設置される公共スペース向け製品を対象とする。低価格帯から冷蔵機能やICカード認証機能を実装した高価格帯までさまざまな製品が発売されており、ECの普及に伴う配送件数の増加への対応策として需要が増加し市場は拡大を続けている。2025年の市場は2018年比85.6%増の245億円が予測される。
戸建住宅向けは、一般消費者が購入しやすい低価格帯の機械式が中心である。エクステリアメーカーやハウスメーカーを中心に活発な製品投入がみられる。普及率がまだ低いため、不在時でも受け取れる利便性の高さや認知度向上により、今後さらなる普及が期待される。
集合住宅向けは、分譲マンションや公共スペースでは、オンラインで管理できる電子制御式の高価格タイプが中心である。一方、賃貸アパートでは、導入や維持、管理コストが抑えられる機械式が中心である。
分譲マンションでは、入居者の需要が高まっているため新築だけでなくリノベーション物件などでも設置が増えると予想される。賃貸アパートでは、低価格な機械式を中心に設置が増えており、入居者の設置ニーズも高いため今後の伸びが期待される。公共スペースでは、設置台数は着実に増えているが、利用率の伸びは小幅にとどまっている。
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電材メーカーにおいても以前より、宅配ボックスの製造・販売が行われてきたが、コロナ禍前後からのニーズの高まりによりこれまで以上に注力している。
パナソニックは、1992年より宅配ボックス事業に参入している。参入当初は、新築やリフォームのタイミングで設置するタイプを中心に展開してきたが、2019年に既築住宅に自分で設置できる後付けタイプの「COMBO-LIGHT」を発売し、新たな展開をはかった。ラグビー日本代表の稲垣啓太選手らを起用したCMが放映されたことも、記憶に新しい。
日東工業と河村電器産業は近年、創業以来手がける電気機器を収納する屋外キャビネットの製造技術を活かした宅配ボックスを発売している。
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昨今、新しい働き方や生活様式が求められるなか、自宅や職場とは異なる「第3の場所」として個室ブースへのニーズが高まっている。その反面、時間や場所の制約によって誰もが持てるものでもない。
日東工業はコロナ禍前より、こうした第3の場所たる「箱」をつくるとの発想から「プライベートボックス」の開発に着手した。昨年10月には、2人での使用にも対応した新しいモデルを発売した。ロビーやエントランス、オフィスの空きスペースに置くだけで周りの声や音漏れ、視線などを気にせずにWeb会議や電話などに集中して作業できる。
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各社は、実証実験や共同開発などを通じて、宅配ボックスの需要開拓とともに社会貢献につながる取組みも進めている。
■河村電器産業
河村電器産業と東海理化が共同開発した「RusuPo with FREEKEY」
昨年、スマートフォンで鍵を解施錠できるシステムを組み込んだ宅配ボックス「RusuPo with FREEKEY」を東海理化と共同開発した。
「RusuPo with FREEKEY」は、河村電器産業が受配電設備メーカーとして培った技術を用いた宅配ボックス「RusuPo」にモビリティ分野で培ったセキュリティ技術を用いた東海理化のデジタルキーソフトウェアを組み込んでいる。東海理化のデジタルキー配信サーバーとの通信が可能となり、スマートフォンのアプリ操作による宅配ボックスの解施錠が可能となる。デジタルキーを活用することにより、宅配ボックスに新たな利用価値が付加されることにより、荷物の受け取りだけでなく発送などにおいても利便性の向上につながる。
■パナソニック
パナソニックと東急不動産が共同開発した冷凍・冷蔵宅配ボックス
このほど、分譲マンション向けの冷凍・冷蔵宅配ボックスを東急不動産と共同開発し、東急不動産が分譲する「ブランズタワー谷町四丁目」「ブランズタワー大阪本町」(ともに2024年3月引渡し予定)で採用する。国内の分譲マンションでの冷凍機能付き宅配ボックスの採用は、国内初となる。
分譲マンションにおいてはこれまで、冷凍品については利用者が直接受取るしか方法がなく、留守の場合には再配達を余儀なくされてきた。こうした現状を踏まえ、パナソニックと東急不動産は、パナソニックが昨年1月に開発した受取り用冷凍・冷蔵ロッカーをベースにインターホンシステム連携や非接触キー対応など分譲マンション用途への変更開発を進めていた。
そのなかで、心斎橋東急ビルに受取り用冷凍・冷蔵ロッカーを設置のうえ、ヤマト運輸と佐川急便の協力のもとに2021年に実証実験を行い、配送物の温度帯や実運用面での検証を行ってきた。実証実験では、受取り用冷凍・冷蔵ロッカーに配送された商品の温度帯に問題がないことを確認できた。
【取組みの背景】
①高まる冷凍食品・ふるさと納税需要
共働き世帯の増加によるまとめ買いニーズの高まりから、以前より増加傾向にあった冷凍食品が昨今のコロナ禍によりさらに需要が増加している。ふるさと納税の利用も毎年増加傾向にあり、冷凍品・冷蔵品の宅配需要が近年高まってきている。
②共働き比率の増加
共働き世帯数は年々増加し、都心居住のニーズの高まりや冷凍食品へのニーズの高まりなど、さまざまな消費傾向の変化が生じている。
③再配達率
国土交通省は、2025年の再配達率7.5%を目標として掲げ、2019年より「置き配」の検討会を実施するなど各種対応を実施している。コロナ禍による緊急事態宣言期間中である2020年4月に都市部で8.2%、全体で8.5%となったものの、その後は再び増加傾向となっている。
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今後、コロナ禍がある程度収束し、「ポスト・コロナ」「アフター・コロナ」の時代になったとしても、宅配ボックスはじめボックス関連製品の需要はさらに高まるものとみられる。電気工事をともなわない製品もあるが、「工・製・販」の連携による需要の掘り起こしで業界を活性化させることは、決して不可能ではない。