電設・ウォッチ  第4回 公立小中学校のエアコン普及とICT化

この夏の猛暑、あるいは頻発する自然災害を教訓として、いま電設業界がなすべきこと

今年の夏は例をみない猛暑で、全国各地で最高気温の記録を更新する事態となりました。
熱中症で救急搬送された人は、全国で7万人以上過去最多となり、亡くなった方も138人と、3年ぶりに100人を超えています。
熱中症でもっとも注意しなければならないのは高齢者です。昼夜ともに暑い日が続くなか、数日かけてしだいに食欲や体力が低下し、持病を悪化させたり、感染症の併発などで死に至ったケースが目立ちます。
また高齢者は認知機能が衰えるため、室内が高温になっていることに気がつかないこともあります。高齢者は、一日の大半を室内で過ごすことが多いため、熱中症になっても発見が遅れがちになるのです。
平成29年度、東京23区内で、熱中症で死亡した人の約3割は夜間に亡くなっており、そのうち屋内が9割を占めています。そのほとんどがエアコンを使用していなかったというデータがあります。(東京都監察医務院のデータより)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/oshirase/necchusho29.html

都監察医務院は「夜間も十分に水分補給することや、エアコンを使うことが重要だ」と結論づけています。

一方、小児の場合は保護者が注意することが重要です。
近年、小児の熱中症での死亡事故は減少傾向にありますが、それでもクルマの中に乳児を置き去りにする不注意な事故は、毎年どこかで発生しています。
小中高生に目を向けると、学校の部活動などで熱中症を発症するケースが大半です。炎天下での野球やランニングだけでなく、剣道や柔道など室内競技で発症する例もあります。
また、愛知県豊田市では校外学習から学校に戻った男児が死亡するという痛ましい事故が発生しています。
そのため文科省は8月上旬、各教育委員会に対し、夏休みの延長や臨時休業日の設定などを検討するよう異例の通達を出しました。同時に各小中学校のエアコン設置率を調査し、設置を進めるように促しています。またエアコン導入費用については、2018年度補正予算案に計上する方針で、今臨時国会で提出されるもようです。

図のように平成29年度の調査では、公立の小中学校の普通教室のエアコン設置率は全国平均で49.6%にとどまっています。担当者は「これまで建物の耐震化などに重点が置かれてきたが、猛暑対策が急務になっている」と話し、エアコン導入の必要性を強調しました。
ちなみに東京都では小中学校のエアコン設置率がほぼ100%なのに対し、寒冷地で設置率が低いのは当然としても、長崎県、静岡県、奈良県、愛媛県などでは設置率が10%未満しかなく、都道府県によって教育環境の格差が大きいことがわかります。
エアコンの設置が進まない理由として、自治体の予算が少ないというのは納得できるとしても、「暑さ寒さに耐えることも教育である」というような意見が根強く残っていることも原因のひとつと考えられます。
ただこのような考えは、近年の加速度的な温暖化に対応できていないことは明白で、すみやかに小中学校のエアコン設置を進めることが必要だといえます。
また公立学校は災害時には避難所としても使われます。エアコン設置だけでなく、高齢者が使いやすいようにトイレを洋式化するなど、災害時の利用を想定した設備改善を進めることも急務です。
これらの事例に対して、電設業界全体としては各自治体や老人福祉施設などにエアコン設置を働きかけていくことが重要だといえます。
これは利益の追求だけでなく、子供たちが教育を受ける環境を整えるためであり、老人の健康と安全を考えるうえで意義深いことではないでしょうか。

一方、6月の大阪北部地震で小学校のブロック塀が倒壊し、小学4年の女児が死亡するという事故が発生しました。
その後の文部科学省の調査で、建築基準法に適合しない危険なブロック塀が、全国に約1万2千以上あることが判明。このうち公立の小中学校が約8千校を占めており、国としての対策が課題となっています。
公立学校が施設の安全対策や環境改善をする場合、自治体に対して費用の3分の1を国が補助しています。
文部科学省は、塀の改修、エアコンの導入を希望する全ての学校が施設整備を実現できるよう、十分な予算を確保する考えです。また私立学校の施設改善費についても拡充する方針のようです。
文部科学省の2019年度予算の概算要求は、公立学校へのエアコン導入や危険なブロック塀の撤去・改修を促す費用などを含め、18年度予算比11.8%増の約5兆9千億円となる見込みです。
今後も毎年猛暑が続くことが予想されています。
これに対して、われわれ電設業界が積極的に地方自治体に働きかけていくことが必要でしょう。

ICT(情報通信技術)が教育を変える 

環境整備と同時に、文部科学省および各都道府県が積極的に取り組んでいるのが「教室のスマート化」です。
各生徒の卓上にはタブレット端末が1台ずつ。子供たちは教育用アプリケーションを利用して各自で勉強し、理解できない子供がいれば教師が席に行って理解の手助けをする。
これは文部科学省の「教育の情報化ビジョン」に基づいて、神奈川県横浜市立白幡小学校で2011年から実施されているICT(情報通信技術)による教育の実証研究の現場風景です。
全国の小中高校はいま、ICTの本格導入によって大きな変化を遂げようとしています。
タブレット端末の導入だけでなく、電子黒板、デジタル教科書も実用化が急速に進んでおり、2020年には全国の教室で実施されることがすでに決まっています。
このICTの導入に関しても、われわれ電設業界が大きく関わることになりますが、これついては、また別の機会でご紹介したいと思っています。