電工さんの工具箱 第32回「直尺」直線を測る、直線に切る

定規と物差しは違うもの?

小学校へ入学すると買ってもらう文房具の一つが「定規セット」だ。2種類の三角定規と分度器と15cmくらいの直定規がワンセットになっているやつだ。ちょっといいのだとコンパスも付いていたりする。ああ、懐かしい。そういえば、幼稚園のおどうぐ箱にも定規は入っていたような。中学生くらいになると、家庭科の授業で使う30cmの「竹さし」が必要になる。竹さしとはつまり竹製の物差しで、竹尺ともいい、主に裁縫に用いる道具だ。かように、定規や物差しは一般的にも身近な道具である。定規や物差し――そう、「定規」と「物差し」は、実は違うものなのだ。

定規は、線を引いたり、紙や布などを切ったりするときに用いるもの。物差しは、ずばり長さを測るためのもの。定規にも目盛りは付いているが、その多くは、端から少し離れた位置に目盛りが刻まれている。一方、物差しは一番端から目盛りが始まる。電工さんや職人さんが持っているスケール(メジャー、コンベックス)なども同様だ。端に余白がないから壁などに当てて正確に寸法を測ることができる。

体で長さを測る?

建築業界には今も尺貫法が残っているが、日本がメートル法へ完全移行したのは1966(昭和41)年のこと。いってみれば最近のことだ。もっと昔は、握りこぶしの横幅を束(つか)、広げた手の親指と中指の間の長さを咫(あた)、両手を広げた長さを尋(ひろ)と呼んで使っていたという。

古来、人類は体を使って長さを測ってきた。たとえば、ヤード・ポンド法の「フィート」の由来は“足の大きさ”であり、「インチ」や「寸」の由来は“手の親指の幅”であり、古代のメソポタミアやエジプトなどでは“ひじから指先まで”が「1キュビット」である。ボルドー地方の土地の単位などは、“人の声がどこまで届くか”だったそう。とにかく計量単位が乱立していて、それが争いの原因になったり、交易や産業の発展を阻んだりもしていた。そんな時代にあって、世界共通単位の必要性をフランスが訴え、18世紀末に誕生したのがメートル法である。

ちなみに、パリを通る子午線(経線)の、北極から赤道までの距離の1000万分の1が1メートルだ。

定規にも物差しにもなる直尺

さまざまな現場で用いられる直尺(ちょくしゃく)とは、基本的には長さを測るための測定工具である。主にステンレス製やアルミ製であることから「金さし」や「鋼尺」などとも呼ばれる。要するに“真っすぐの物差し”だが、線を引いたり、カッターナイフで物を切ったりする作業にも使えるため、「定規」と「物差し」の両方の機能を兼ね備えた便利な工具といえる。身近な道具だけに100円均一ショップなどでも売られてはいるが、現場作業で使う場合は、やはり信頼できるメーカーやJISマークの付いた製品を選びたい。