新分野への進出
経済調査会社の富士経済のレポートによると、LEDを10年年区分で提案の価値観を見てみると、LED化以前の2010年までは、照明は機能性・省エネ性能と意匠・感性が求められ、LED化以降の2010年代はスマート化(省エネ・省メンテ)と意匠・感性が、そしてポスト2020年はスマート化(省エネ・省人化)、意匠性・エンタメ性、ウェルネス化(快適性・心理・生理作用)、セーフティ化(防犯・見守り)に加え、AI・IoT化や設備連携、価値提案融和が進むと予測している。
具体的には、機能的価値と感性的価値、それらをつなぎ高めるAIとIoT技術を駆使し、情報通信、センシング、危機感連携などを行い、機能的価値の「Smart」では、省エネ、省力・省人、省施工、省スペースを、「Safety」では、防災・減災、防犯、見守り、BCP(事業継続計画)を追求する。
一方、感性的価値の「Wellness」では快適性、健康向上、生産性向上、自然光採光/再現を、「Entertainment」ではカラー演出、映像演出、空間演出、アート照明などを追求するようになると予測している。
◇機能的価値
機能的価値を高める次世代照明器具の方向として、「Smart」分野では、LEDの一層の効率アップによる省エネルギー性能が要求され、自動制御などによる省力・省人化、簡易取り付けや照明器具自体の軽量化などによる省施工化も最近の女性電気工事士の増加に伴って要求が増えているという。
大光電機では従来のダイキャスト製で2.3㎏あったスポットライトを、PPS樹脂製のボディに変更して1㎏に軽量化している。
省スペース化の波は、最近まで埋め込み穴寸法100φが中心だった住宅用のダウンライトも、LEDのCOB化により小型化された。オーデリック、コイズミ照明、大光電機などから75φや50φの穴径のダウンライトが発売され、空間において目立たなく、スッキリと仕上がるため売れ筋になってきている。
その他の機能系照明器具も小型化の方向にあるのはもち論、ペンダントなども多灯使いが多くなり、一般電球では実現できなかった直径100φ程度の製品が各社から出そろい始めた。
「Safety」の分野では、防災、減災に向けて、停電後も一定の間点灯し続けるホタルックスのLED一体型ベースライトNuシリーズ(ホタルックタイプ)のような残光照明器具や、ベースライトなどに防犯、見守りのための、カメラを組み込んだ東芝ライテックのViewLEDや、2019年にはシグニファイジャパンより可視光通信ができるような照明器具も発表され、可視光通信の機能を持った照明器具の製品化も進むと予想される。
いつ起こるかわからない災害に対して防災、減災対応の複合機能を有したLED照明が今後も多数製品化されるだろう。
マーケッツ&マーケッツのレポート「UV殺菌装置市場、コンポーネント(UVランプ、石英スリーブ)、出力(中、高)、アプリケーション(水および廃水殺菌、プロセス水殺菌)、エンドユーザ(住宅、地方自治体)と地域、2025年までのグローバル予測」によると、世界の市場規模は、2020年の29億㌦から、2020年〜2025年に年平均成長率(CAGR)が、12.3%で成長するとしており、2025年には53億㌦に達する見込と予測。市場の成長を後押しする主因は、感染病の脅威から増加するUV殺菌システム需要、また長寿命と省エネLEDベースUV殺菌装置の増加とみている。
今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は特に「Safety」分野の用途開発で、単に防犯、防災、減災だけではなく日常的にウイルスなどから人を守るという深紫外線LEDの持つ特長を活かしたLED照明器具の開発が期待される。今後も安心、安全のあかりを求めて、いろいろな複合機能を備えたLED照明器具が誕生してくるだろう。
◇感性的価値
感性的価値を高める次世代照明器具の方向として、「Wellness」の分野では快適性、健康志向、生産性向上など、人の生理や心理、サーカディアンリズムに代表される生体リズムに合わせた色温度や照度を制御するのは当然の機能となっている。
それらの一歩先を行く製品として、三菱電機から今年10月に発売される「みそら」は、自然光採光や青空の再現をするような極めて太陽光の分光分布に近いLEDや開放的で奥行き感のある青空を模したパネルと、自然な太陽光の差し込み感を表現するフレームを組み合わせた青空と自然な光を表現する新しい照明器具として注目されている。
分光分布において太陽光を意識した、紫励起によるLEDはすべての可視光スペクトルを含むため、青色LEDに比べ太陽光に非常に類似し、アメリカのSORAA、韓国のソウル半導体、日本の京セラなどがすでに製品化し今後日本の照明器具メーカーにも採用され普及していくと思われる。
スイスのバーゼル大学のChristian Cajochen教授の研究によると、相関色温度(CCT)と強度の実測値が同じでも出力スペクトルの異なるLED光源は、人間の行動や生理に与える影響が異なることがある。太陽光に近いスペクトルを持つLED光源は、従来スペクトルのLEDと比較して被験者の朝と夕方の視覚的快適さ、覚醒度、幸せな気分に好ましい影響を与えた事がソウル半導体の紫励起LEDの「サンライク」と「一般的なLED」との比較で確認された。
あらゆる生物を含め、ヒトの生体は約20万年前にアフリカに誕生した新人ホモ・サピエンスが世界に広がり、我々現生人類が誕生したとされて以来、太陽の光の影響を受けて暮らしてきた故に太陽光と密接な関係を持っているのは明らか。今後も太陽光を理想としたあかりの開発は進むだろう。
「Entertainment」分野ではカラー演出などがより一般的になると予想される。
調光システム専業メーカーのスタイルテックの本木英司社長は小店舗や家庭でもフルカラー照明器具の普及でカラー調光器の需要が増えると予測。「DMX512に対応しているRGB・LED照明器具向けに操作が簡単でシンプルなフェイスデザインのコントローラーを2月から発売した」と需要拡大に自信を深めている。
映像演出、空間演出、アート照明などはプロジェクションマッピングなどが代表的な手法として根付いてきたが、デジタルエンジニア出身の猪子寿之氏率いるチームラボや、インタラクティブエンジニアでダンサーでもある、LDH・EXILEの照明演出デザイナーの藤本実氏率いるエムプラスプラスなどの既存のメーカーではないベンチャーが、LED光源、LEDデジタルサイネージ、LEDプロジェクターなどをコンピューターグラフィックなどのハイテク技術を駆使して光のアートを生み出している。
プロジェクターを手掛けるウシオライティングでは、クリエイターのイメージを具体化できるようにするために社内でもウシオ創業の地・姫路で、「照明×映像×音響」による演出を通じた地域貢献活動を行うと同時に、ソリューションビジネスの拡大やエンターテインメントビジネスを深耕のために知己で開催されるイベントへの協力などを通じて、いろいろな可能性を追求し製品開発に活かしているという。
クリエイターやアーティストとの連携が不可欠な分野ではあるがそれにより、エンジニアとは違う発想が生まれて今後、マイクロLEDなどの技術進歩でより解像度の高いデジタルサイネージや、レーザーLEDプロジェクターの普及で従来とは違った映像演出、空間演出、アート照明が生まれてくるものと思われる。
今回の富士経済の調査から、今後の10年間は「照明主導」で人間中心の機能的/感性的価値提案を目指す、Connected Smart Lighting & Human Centric Lightingを探ると予測される。
LED照明の可能性
一方この先10年のポストLEDテクノロジーからは、レーザーLEDにも注目したい。
オートモーティブの分野ではすでに1㎞先まで光が届くという高級車のヘッドライトをアメリカのSLD Laser社が実用化している。
レーザーLEDが今後、屋外投光器や屋外照明、高天井などハイパワー照明の分野で注目を集めるのは時間の問題だが、レーザーLEDは光の制御が容易なため、今後は光を集光し、小さなエネルギーで必要な照度を得られる超小型のダウンライト、ウオールウオッシャーや、スポットライトなどが誕生しインテリア空間に革命が起こるような環境が生まれると期待される。
また、レーザーLEDはLi-Fi(Light Fidelity)に最適な、光無線通信技術でLED照明の光に音声、動画、データなどの信号を高速に変調させることで、ワイヤレスに光通信することができる。
あかりの概念を超えるあかりといえるレーザーLEDは、次のような大きな特長がある。
・Li-Fi:コミュニケーションする光。
LiDAR:(Laser Imaging Detection and Ranging)は、レーザー光を走査しながら対象物に照射してその散乱や反射光を観測することで、対象物までの距離を計測したり対象物の性質を特定したりする光センサー技術。
人工衛星や航空機に搭載し地形や建造物、森林構造などを測定する測量技術として活用されてきている。自動車の自動運転に活用されだしてもおり、光を用いたリモートセンシング技術といえる。
・AR(拡張現実)/VR(仮想現実):非現実の世界への誘い。
・HUD(Head-Up Display):人の視野に直接情報を映し出す。
・生体医療用:内視鏡手術の照明用。
・産業用:厚さ数㎜の銅のレーザー切断加工。
・一般照明:屋内外のユニークなリモートライティング、グレアフリーのライト。
・車載照明:グレアフリーの室内灯、到達距離の長いヘッドライト。
・演出、映像照明:小型のプロジェクター用光源、小型の舞台用照明。
レーザーLEDは将来的に非常に興味のある光源であり今後も実用化に向けて注目したい。
今後は、AI・IoT化技術との関連でほかの設備との連携や複合が進むが、それは「照明主導」で人間中心の機能的/感性的価値提案を行わないと、照明器具メーカーとしての生き残りは極めて困難になると考えられる。
そのような中、成熟したLED照明市場の各社の最近の製品戦略などに注目したい。
次のページはメーカー各社の商品戦略